2016.03.14

「日本企業は本社主導型税務マネジメントの確立を急げ」 EY税理士法人代表 網野健司

 日本の税制は、いま大きな変革期を迎えています。OECD(経済協力開発機構)が推進するBEPS(Base Erosion and Profit Shifting=税源浸食と利益移転)プロジェクトの中身が次第に明らかになり、企業も対応を迫られています。

 

 BEPSは、グローバル企業の過度な節税行為が目に余るものとして問題視されたことに端を発し、国際課税ルールの新たな枠組みを、OECD加盟国及び非加盟新興国の連携の下に策定しようというものです。

 

 逼迫した国家財政を立て直すため、各国政府は課税強化のアクセルを踏んでおり、日本企業もグローバル競争に勝ち抜くには税務体制の増強が急務です。

 

 そこで、日本企業がこれらの課税強化への対応策として、EY税理士法人の網野健司統括代表社員は、「本社主導型税務マネジメントの確立」の重要性を唱えています。その具体的な中身について網野代表に聞きました。

 

税務リスクと税金コスト管理の必要性

 

 「企業は、持続的にグループの企業価値を高めて、市場の高い評価を受けなければ、国内外のライバル企業に対抗して、競争を勝ち抜いていくことができません。

 

 必然的に、企業には適切な『税務マネジメント』を常に行うことが求められるのです。それでは今後、日本企業が向かうべき望ましい税務マネジメントの姿とは、どのようなものなのでしょうか。

 

 企業の税務マネジメントには、大きく分けて2つの側面があります。『税務リスクの管理』と『税金コストの管理』です。日本企業の国際化が加速する中、税務ガバナンスを取り巻く環境が大きく変化するとともに、企業の様々な局面における税務リスクが高まっています。自社が選択している税務ポジションのリスクを認識し、継続的に管理する体制が確立されていないと、想定外に多額な更正処分等を受ける可能性があります。さらに、そのような場合に報道リスクへの対応を誤ると、企業の信頼に大きなダメージが生じます。 

 

 税金コストの管理に関しては、自社と欧米の競業他社との実効税率を常に意識して税金コストを管理する必要があると思います。実効税率の差はまさにキャッシュフローに結びつき、試験研究、設備投資といった投資に重要な影響を与え、その結果将来のビジネスの成長に影響するからです。投資家の視線も営業利益、経常利益から純利益やROE(株主資本利益率)にシフトしています。」

 

本社主導型税務マネジメントの確立

 

 「グローバル企業が成功を収めるためには、税務におけるリスク管理と税金コスト管理を車の両輪と捉え、両者のバランスを考慮した戦略的な取り組みを行うことが必要となります。2つの側面に十分目を配り、税務をめぐる環境変化とリスク要因に適切に対処するためには、経営戦略と合致した税務戦略の策定が必要であり、経理財務部門にとどまらない税務への『全社的な対応』が求められます。

 

 また、各国・地域や各社での個別対応ではなく、連結グループとしての全社方針に従った『統一的な対応』が有効です。全社的・統一的な対応、リソース・情報・ノウハウの共有という観点からも、『本社主導型の税務マネジメント』を確立することが重要です。

 

 本社税務部門をまず充実拡充させ、税務に関するトップマネジメントの関与を強化します。その上で、税務部門のグローバルネットワークを構築する必要があります。」

 

欧米に遅れをとる日本企業

 

 「なぜ日本企業は、本社主導型税務マネジメントの構築を急がなければならないのか。それは、日本企業は税務リスクと税金コストの管理という点で欧米のグローバル企業に遅れをとっており、ビジネスリーダーたちは意識改革しないと税務リスクとコストが経営の足かせになりかねないからです。

 

 OECDが発表したBEPS行動計画の中に「国別報告書(CbCR)」という報告書の作成提出義務制度があります。これによって多国籍企業の親会社は、そのグループ企業が事業を行う国ごとに収入金額や納付税額といった項目の報告が義務化されました。

 

 これまでの日本企業は、海外事業の税務管理を海外子会社任せにする傾向が強かったのですが、国別報告書の導入により受け身の税務マネジメントは通用しなくなります。

 

 世界的にビジネスを展開する日本企業は、海外子会社の情報を吸い上げる体制を作ることが緊急の課題となっています。逆に言えばこれは意識改革、変革の良いチャンスになると思います。

 

 日本企業は、国内及び各国・地域の税制改正及びBEPSの動向を注視し、重要な改正等が事業計画に与える影響を事前に把握し、適時・適切に対処する必要があります。

 

 私が本社主導型税務マネジメントを唱える理由は、まさにここにあるのです。」


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