2017.01.11

インタビュー:OECD幹部が語るテクノロジーと税務の在り方

 デジタル化の波により対応を迫られているのは、企業の税務部門だけではない。政府や租税当局が広範囲にわたって、様々なイノベーションへの対応に取り組んでいる。Tax insights編集部は、租税回避の新しい国際ルールであるBEPSを主導しているOECD(経済協力開発機構)の租税センターで次長を務めるグレース・ペレズ・ナヴァロ氏にインタビューし、技術革新時代のあるべき税務の姿について聞いた。

 

OECD租税センター次長のグレース・ペレズ・ナヴァロ氏とのインタビュー

 

編集部:デジタル化は、税務当局や納税者にどのような影響を与えていますか?

 

グレース・べレズ・ナヴァロ:テクノロジーや納税者データのデジタル化は、数字の間違いの特定やリスク管理ツールの使用まで、あらゆる領域で税務当局の業務を後押ししていますが、納税者にも多くの利点があります。例えば、電子確定申告を利用する納税者の数が継続的に増加していますが、電子確定申告は納税者にとってより簡単ですし、還付金の支払いが加速する傾向があります。また、新しいテクノロジーの利用によって、納税者により良い、また、より使いやすい様式や情報をリアルタイムで提供するなど、サービスの点からも納税者への対応の円滑化が図られています。国によってテクノロジーの開発段階は様々ですが、世界各国の税務当局は、テクノロジーによって納税者と税務行政とのインターフェース全体がより簡潔になるという考えで一致団結しています。

 

編集部:リアルタイムモニタリングの環境下で税務がどのように変化すると思いますか?

 

ナヴァロ:リアルタイムモニタリングという新たな環境下では、リアルタイムの回答や調査が促進されることになり、その結果、納税者の不安が軽減することになります。また、多くの国の税務当局は、特にビジネスモデルの変更に伴って、複雑な状況や新たな状況に直面する大規模納税者のためにリアルタイムでの解決策を見出すよう取り組んでいます。企業が特定の取引を税務上どう取り扱えばいいのか確信が持てない場合に、問題が何年も解決されないままになる従来のアプローチよりも、問題がリアルタイムで解決される方が非常に有益である場合があります。従来のアプローチは企業、税務当局の双方にとって好ましいことではありません。多くの国で様々な種類の協力的なコンプライアンスプログラムが採用されており、納税者は特定の問題について迅速な回答を得ることができます。これらのプログラムの下で、デジタル化やリアルタイムモニタリングが実施されることによって、より迅速な問題解決が促進されます。

 

編集部:ビッグデータは税務行政へどのような影響を及ぼしますか?

 

ナヴァロ:ビッグデータは挑戦でもあり、好機でもあります。税務当局はリスク評価を行い、関連する問題に資源を集中するために、大量のデータを効果的に取捨選択できるようにテクノロジーの活用を可能にする必要があります。他方では、多くの国の税務当局は、税務行政の責任を負うだけでなく、税制を通じてその他のサービスや手当も提供しています。税務当局は、他の政府機関から情報を収集し、それらを統合する必要があります。また、税務当局は、ある部門の法人所得税、別の部門の付加価値税(VAT)など個別に着目して納税者を分断的に評価するのではなく、納税者を総合的に評価する傾向が強まるのではないかという見方をしています。しかし、テクノロジーを利用しなければ、それを効果的に行うことは非常に困難になります。

 

編集部:OECDのBEPS行動計画5(所得の発生に関連した支出に則して知的財産関連所得の便益を納税者が享受できるようにする「ネクサス・アプローチ」という方法)はイノベーションにどのような影響を及ぼすと思いますか?

 

ナヴァロ:BEPS行動計画5について言及する前に、知的財産と知的財産関連の税制上の優遇措置を関連付けて整理することが重要です。これらは、イノベーションの成功企業のみに報いる、所得に基づく税制上の優遇措置であることから、既存の大企業に恩恵を与える可能性が高くなり得ます。これらの大企業はすでに成功を収めており、税額控除で相殺できるだけの利益を上げています。こうした税制上の優遇措置は必ずしもイノベーションを促進するための最適な租税ツールではないかもしれません。特に小規模なスタートアップ企業の場合は、税額控除を使うだけの利益を上げていませんし、そもそも、研究開発(R&D)活動を行う資金を調達できていません。比較的新しく革新的な企業は、R&D活動の資金を調達するために、初期の段階から政府の融資や支援を必要としています。

 

編集部:その点を考慮した場合、BEPS行動計画5はイノベーションにどのような影響を与える可能性があるでしょうか?

 

ナヴァロ:BEPS行動計画5では、知的財産を革新的なツールと見なそうとしませんでした。非常に可動性が高い、特許などの知的財産のような項目の使用による税源浸食を防止するために、知的財産に関連する税制上の優遇措置を特定の税務管轄区域で行われた経済活動や、そこで創造された価値に起因する利益に制限する規定を定めようとしました。それは、知的財産の周りを規制という枠で取り囲もうとしたということになります。

 

編集部:所得に基づく税制上の優遇措置は、政府がイノベーションを促進する上で最良の方法ではないかもしれないと言われましたが、政府が税制を利用してイノベーションを促進するためには他にどのような方法がありますか?

 

ナヴァロ:所得サイドでは、研究開発費に対する税額控除や加速減価償却などの対策は、税制優遇効果を通じてイノベーションを支援することになります。また、税務上の損失を制限することは、目標とする研究開発費への税制上の優遇措置の価値に影響を与える可能性があります。さらに、租税構造の他の要素も重要な役割を果たす可能性があることも認識しています。例えば、従業員のストックオプション(自社株購入権)の税務上の取扱いは、税制上の優遇措置の価値に影響を及ぼします。なぜなら、スタートアップ企業にとっては、キャッシュフロー問題の緩和の一助となることから、ストックオプションの付与の方が給料を現金で支払うより有利になる場合があるからです。雇用者が負担する給与税などの労働税は、事業経費を大幅に増加させる可能性があることから、革新的な事業活動に対して労働税を引き下げることで効果がもたらされる可能性があります。イノベーションを行う企業はそれぞれ非常に異なっているため、支援を一つの税制優遇策に制限しないことが重要です。

 

編集部:全体的な税率はイノベーションにどのような影響を及ぼしますか?

 

ナヴァロ:全体的な租税構造はイノベーションに大きな影響を及ぼします。例えば、個人でイノベーションに取り組んでいる発明家は、個人の税率に関心を持つでしょう。高い税率はイノベーションの阻害要因となります。なぜなら、自分の努力に見合った利益を得ていないと考えれば、イノベーションに取り組む可能性が低くなるかもしれないからです。もちろん、税金はどんなものであれ、行動を歪める可能性があります。そのため、税金が高いほど、自分の行動に関する判断に影響を与える可能性がより大きくなります。各国政府が実行できる最も単純明快なことの1つは、低税率と幅広い課税基盤を実現することです。

 

編集部:税の確実性の役割とは何ですか?

 

ナヴァロ:税の不確実性が課税管轄区域全体の経済情勢に与えるマイナス影響について、政府の認識を高めることが重要です。最近、この領域に重点を置いた新たなプロジェクトを立ち上げたばかりです。税の不確実性はある意味では、課税管轄区域の不確実性を指しています。例えば、特に矛盾なく解釈されている租税条約は、確実性の提供の一助となっています。また、税の不確実性は、法規制に関する政策設計や政策の実行に起因する場合もあります。例えば、税務行政機関がどれくらい一貫性を持って政策を施行するかということが重要となります。効果的な紛争解決の仕組みを確立することは、二重課税を回避するような方法で税務紛争が解決されるという確実性を与える上で極めて重要です。租税環境でより高い確実性を提供することは、イノベーション投資を促進する一助となるはずです。

 

編集部:政府には、イノベーションを支援する手段が他にありますか?

 

ナヴァロ:政府の補助金は、税制上の優遇措置ではなく政府支出ですが、これもイノベーションを後押しします。また、OECDの科学技術の部局では、公共政策がイノベーションの促進に果たす役割について研究を行っています。例えば、同局は、新しいアイデアやテクノロジーを生み出し、それらを市場化し、社会全域におけるテクノロジーの変化にタイムリーに適応する知識やスキルを備えた熟練した労働力がいる環境下でイノベーションが成功していることを発見しました。税制にも、教育費の税額控除やその他の税制上の優遇措置を通じて、熟練した労働力の育成を支援する上で果たす役割があります。また、テクノロジーへの投資を促進するような健全なビジネス環境が整っていることも重要な要素であり、この場合も、税制が、研究開発費の税額控除や、その他の税制上の優遇措置を通じて、重要な要素の一部となっています。また、政府も、知識の創造や普及のための強力かつ効率的な制度を構築することを含め、科学やテクノロジーを支援していく必要があります。政策の適切な組み合わせは多くの要因によって決まってきます。したがって、万能の解決策など存在しません。


グレース・ペレズ・ナヴァロ

OECDの租税センター次長であるグレース・ペレズ・ナヴァロ氏は、国際的な税務協力を向上させ、税務政策の改善を促進し、OECDによる税務の取組みに発展途上国を関与させるなど、税源浸食と利益移転(BEPS)に関する取組みで中心的な役割を担っています。ナヴァロ氏は、OECDの租税センター次長に就任する前は、米国内国歳入庁(IRS)の次席法律顧問官室(国際担当)で特別法律顧問官を務めていました。特別法律顧問官として、同氏は、現場事務所に提供された国際税務問題に関するガイダンスの調整、国際税務問題に関する訴訟の監督、租税情報交換協定(TIEAs)の交渉、規則、裁定、その他の政策的助言の起草に対する監督、条約交渉の参加などを担当していました。1993年に、ナヴァロ氏はOECDの移転価格ガイドラインの改訂作業に着手するためにIRSからOECDに出向しました。


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