2017.02.09

イノベーション:税務の破壊者たち 第1回

 今、破壊的なイノベーションが注目の的となっています。破壊的なイノベーションによって、新たな市場が創造され、さらに企業や政府の仕組みに変化が起こっています。税務部門は現在、こうした破壊の道をうまく乗り切るという難題に直面しています。今回、『Tax Insights英語版』及び『タックスインサイト日本版 No17』に掲載された特集記事をご紹介します。

 

【文・Tax Insights編集部 カレン・リンチ】

 

 破壊的なイノベーションは、世界中の様々な産業分野で幅広い注目を集めています。自動車の相乗りサービス(ride-sharing service)の利用回数が20億回に達したこと、税務職員が税務監査をソーシャルメディア経由での実施を目標にしていること、また、ベンチャー投資企業が人工知能(AI)を取締役会のメンバーにすることなど、イノベーションの影響はあらゆるところで見られます。

 

 革新的な破壊は全く新しい市場を創造し、世界の仕組みを根本的に変えています。ここ10年間、世界のデジタル経済のスローガンは、「破壊するか、さもなければ破壊されるか」でした。今後10年のうちに、産業の様相は全く異なったものとなる可能性があります。

 

 気が付いてみれば、税務部門も間違いなく破壊の道を進んでいます。税務部門が直面する3つの破壊的な要因は、「世界市場のスピード」、「税務当局による税のデジタル化」、「スマート税務」です。税務チームは、自組織内において急速にデジタル化やグローバル化が進む事業分野やビジネス活動に迅速に対応しなければなりません。その一方で、税務チームは、多くの国が税務行政のデジタル化を推進するとともに、バーチャル化が進む国境のないビジネス界に対する税務政策を改変するという状況に直面しています。ロンドンに拠点を置き、EYグローバルバイスチェアを務めるジェイ・ニビィ氏は次のように述べています。「今後短期間で税務に関する紛争は増え、さらに、二重課税の発生率も上昇する。しかし、最終的にはテクノロジーによって税務コンプライアンスが改善され、より完成度の高い税制にたどり着くはずである」

 

 そこで、先進的なデジタル税務である「スマート税務」が3つ目の破壊的な要因として作用し始め、租税徴収の自動化、大量データのより深い分析などが行われるようになります。

 

 米国カリフォルニア州サンノゼを拠点にし、EYグローバルテクノロジー産業チームの税務リーダーを務めるチャニング・フリン氏は次のように述べています。「税務機能はジャスト・イン・タイム方式の運営形態へ移行している。今日の税務は非常に非効率的だが、今後10年のうちにこれらすべてが解決されれば、税務に要する作業期間は大幅に短縮され、税の透明性は高まり、税務に関する紛争は少なくなるはずである」

 

税務に係る新たな難題

 

 イノベーション、ビジネスモデルのデジタル化、世界市場での過度な競争激化などによって、企業は今までにないスピードで前進することを余儀なくされています。良いアイデアは、デジタル化されれば一晩のうちに世界中で展開され、ネットワーク効果によって拡散され、果てしなく続く改善によって洗練される可能性があります。

 

 サンフランシスコに本拠を置くAirbnbは8年前に起業しましたが、今日では192カ国で1億人を超える宿泊客にサービスを提供しており、その一方で新しいシェアリングエコノミー(共有経済)型ビジネスモデルの定義付けにも一役買っています。このシェアリングエコノミー型ビジネスモデルは世界中の様々な産業で模倣されています。また、Airbnbはイノベーションを継続的に実施しており、提供するサービスの内容を平均的な旅行者向けのルームシェアリングから、ビジネス用の宿泊提供、旅行アドバイス、各種の予約や業務管理ツールなどの提供まで拡大しています(「イノベーションで立ち向かう民泊の納税問題 Airbnbインタビュー」記事参照)。

 

 シェアリングエコノミー型の企業、オンライン融資会社などのフィンテック(FinTech)のスタートアップ企業、無人自動車を開発した自動車技術関連のイノベーション企業などは破壊的な要因の一部となっており、これらの企業は急速かつ広範囲に浸透していることに加え、デジタルテクノロジーの活用を通じて従来のやり方を覆しています。こうした勢力に対抗するため、既存の企業はより速いイノベーションを実践することを余儀なくされており、多くの企業戦略には継続的なイノベーションが優先事項であると明示されています。

 

 その代わりとして、企業の税務部門はイノベーションの進展によって、国境のないクラウドベースの取引や世界的に商業化された知的財産、及びそれらによる間接課税への影響などについて確実に理解しなければならないという課題に直面しています。例えば、付加価値税(VAT)/物品・サービス税(GST)に関して言えば、サプライチェーンが一段と長く、より複雑になっており、複数の国境間で適用税率が絶えず変わっています。

 

 また、法人税に関する疑問も生じます。例えば、よくあるのは次のような課題です。「様々な海外のソフトウェア開発センター、ターゲット市場のマーケティング部門、別の大陸に拠点を置く経営幹部レベルの意思決定者の間で行われた電話会議によって生じた課税対象価値はどこで創造されたことになるのか?」

 

 さらに多くの破壊的なテクノロジーやデジタルビジネスモデルが出現する可能性があることから、問題はより大きくなります。税務部門は、税支出を管理し、訴訟、追徴税、金利などを回避し、財務報告書の修正の必要性を未然に防ぎ、また、良き企業市民として自社の名声を守る必要があります。加えて、税務部門には、痛みを回避するだけでなく、コスト優位性、税制上の優遇措置、外国税額控除など、価値を見出す責務もあります。

 

全体像からの欠落

 

 今日のトップ企業では、社員はラップトップを起動し、ダッシュボードを開いて、世界のサプライチェーンの中で何が起こっているかをリアルタイム、あるいはほぼリアルタイムで確認することができます。最高財務責任者(CFO)は自組織内の財務変革の陣頭指揮を執り、多くの場合、分散した機能を集約化して、卓越した共有サービスの地域拠点を構築します。企業資源計画(ERP)システムは、業務部門や事業部門から大量の取引データを入手しています。これらは、記録、分析、税務報告上、極めて貴重なソースデータとなります。

 

 これらのシナリオに不足しているのは、税務チームが全く関与していないこということです。現状は、縦割り型のサイロアプローチが依然として幾分残っており、これがリアルタイム、あるいはほぼリアルタイムのデータ入手の実現を遮っています。例えば、EYの分析によれば、財務変革プロセスに税務分野を織り込んでいるのは、財務変革を断行した組織のうち約半分でしかありません。大半の税務部門では、内部データを収集し、当該データに基づいて政府へ提出する税務データや第三者向けのデータを作成する仕事は、依然として手作業で行われています。

 

 ニュージーランドのウェリントンを拠点にし、EYアドバイザリーサービスのグローバルデジタルリーダーを務めるリチャード・サー氏は次のように述べています。「現在、税務担当役員は大半の時間をデータの収集に費やしている。将来的に、税務分析が即可能な情報を入手できるようになれば、彼らは、大半の時間を戦略的な税務分析に割けるようになる」

 

 税務分析は間違いなく、これまで以上に戦略的である必要があります。現在では、一般的に企業のマージンが低下圧力にさらされていることから、税務ポジションの変更や税務戦略の調整を正当化するために必要な潜在的な投資利益率(ROI)に対するハードルが低くなっています。

 

 また、自社事業のグローバリゼーションが全速力で推し進められたとしても、税務部門は、経済協力開発機構(OECD)の税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトに適合できるよう、再三にわたり方向転換を繰り返す必要があります。

 

 2015年10月に公表されたBEPSプロジェクトの多国間税務協定の改訂が未完成のままで、2016年に入っても税務当局は依然として当該協定の改訂に取り組んでいます。その一方で、世界各国政府は、時には、当該ガイドラインに関する独自の矛盾した解釈に基づいて国内税法を制定しています。同時に、税務当局は、税のデジタル化に取り組むだけではなく、企業のデジタル化に迅速に対応できるよう、他国の税務当局との情報交換体制を構築しています。

 

 例えば、税務規則が変更になることで、新たな課税管轄区域では、ネットワークサーバーが設置された場所が課税対象となる恒久的施設(PE)と見なされるリスクが突然高まる可能性が出てきます。課税管轄区域によってVAT/GSTの適用規則や税率が変化することにより、価格設定戦略が混乱し、利益前提が引き下げられ、複雑なグローバルサプライチェーンの見積りが台無しになる可能性があります。Airbnbは、新しい取引方法を作り出すことによって、全く新しい税務戦略を構築しています。

 

 「私たちは、どうやって当社のホストの税務問題に関与し、彼らを手助けすべきかについて考えざるを得なかった」とAirbnbでグローバル税務ディレクターを務めるベス・アデア氏は述べています。例えば、Airbnbは、同社の取引プラットフォームを使用して、200の課税管轄区域(その数は増え続けています)において自宅で宿泊客を泊めているホストに対して、ホテル税や宿泊税の別名で知られている観光税を徴収し、納税し始めました。「企業が自発的に関与して、他人の納税義務を果たすことは異例なこと」とアデア氏は指摘します。

 

第2回へつづく


この記事をシェアする。

印刷
ページTOPへ