2017.08.30

国際調査から見る税務リスクの世界的広がり

 台頭する保護主義に、テロの脅威、地球規模で頻発する自然災害や高まる軍事的緊張。世界の人々は、これまで以上に「リスク」を意識する時代に突入している。高まるグローバルリスクは、税務の世界についても言える。

 

 EYは、「2017年税務リスクと税務係争に関する調査」を1月から2月にかけて実施した。日本を含む69の国と地域、17業界以上の税務・財務部門の幹部(901名)を対象にした調査から明らかになったのは、世界のビジネスパーソンがこれまで以上にリスクに敏感になっていることだ。

 

 「簡潔に言えば、税務リスクと係争の管理はこれまで以上に困難な課題となりつつあります」と語るのは、EYグローバル税務係争リーダーのロブ・ハンソン氏。「言うまでもなく、BEPS勧告が発表され、導入が開始された2015年10月の段階で想定されていたものよりも難易度はさらに高まったと言えます」

 

 ハンソン氏が強調するのは、経済協力開発機構(OECD)が主導で展開されている税逃れ対策の国際的な枠組みである「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」の影響。

 

 BEPSの導入により、企業には一層の透明性が求められ、報告手段も変化している。これが税務コンプライアンスや報告機能、税務調査・係争、風評リスクなどに対して重大な影響をもたらしているのだ。

 

拡大する税務リスク

 

 今回の調査で特筆すべきは、企業人の多くが税務当局の対応の変化を感じていることだ。回答者の58%(複数回答可)が、過去2年の間に「税務当局が国境を越えた問題や取引をより重視するようになった」と答えている。さらに、55%の回答者は「開示・透明性に関する要求事項」が、41%は「税務調査の回数や積極性」が、増大したと回答した。

 

 18%の回答者は、一般的租税回避防止条項や特定の租税回避防止規則の適用が増大したと述べている。

 

 「企業が多くのステークホルダーから、絶えず変化する租税法に対する順守性を立証する必要性に迫られていることは明らかです」とハンソン氏は言う。

 

 一方、日本企業に限ってみると、「税務当局による国境を越えた問題や取引の重視」が50%でトップだったが、「開示・透明性に関する要求事項の増大」の19%よりも、「税務調査の回数や積極性の増大」が27%と高くなっている。当局による税務調査に神経質になっている日本企業の姿が浮かび上がってくる。



グローバル化に伴うリスク

 

 収益拡大や新たなチャンスを求めて多くの企業はグローバル化を進めているが、より大規模で複雑なビジネス体制を拡大させようとすると、より多くのリスクに直面することがEYの調査からも分かった。

 

 グローバル化で想定されるあらゆるリスクの中で、「移転価格に関するリスク・不確実性の増大」と「税務法令に関するリスク・不確実性の増大」がともに59%でトップ。続いて、「税務調査に関するリスク・不確実性の増大」が46%だった。

 

 一方、日本企業は「移転価格」が58%で全世界と同じくトップとなったが、「税務申告に伴う運営上の課題、データに関する課題」が同じ割合だったのが興味深い。また、「税務調査」とともに42%で2位だったのが「より国際的なモバイルワーカー」だった。国際的な業務拡大をする上で、人材確保の困難に日本企業が直面していることが浮き彫りになった。



地理的リスク

 

 企業がグローバル展開を進める際に、「どこで」展開するかが重要な検討課題の一つであることは、論を待たない。

 

 今回の調査では、今後2年間で税務リスクが最も伴うと思われる国・地域を121の中から選んでもらった。トップ5税務リスク国・地域は、上から順に、米国・中国・英国・オーストラリア・インドだった。

 

 調査全体では、米州、アジア、欧州、豪州とまんべんなく分散しているのに対し、日本企業のトップ5は中国、インドネシア、インド、米国、日本だった。アジアで展開する企業が多いことが背景にあると考えられるが、日本が5位に入ったのも興味深い。

 

 「国・地域に伴うリスク認識の対象は、先進国へと逆戻りしているように思われます」と、シドニー駐在のEYアジアパシフィック税務係争リーダーであるハワード・アダムス氏は言う。先進国の政府が租税回避対策を積極的に打ち出しているのが背景にある、とアダムス氏は分析する。

 

 例えば、オーストラリアにおける多国籍企業の租税回避防止に関する法律や、英国における脱税促進を阻止しない企業に対する新たな刑事罰則の導入がこれに当たる。

 

 米国における税務リスクについて、ワシントン駐在のEY米国税務係争リーダーを担当するヘザー・マロイ氏は、「米国に関する懸念は、米国議会がどのように包括的な税制改革を行うのか、あるいは実際に行うのか、という大きな不確実性によって生じているように思えます」と述べている。

 

講じるべき手段

 

 高まるリスク、変化するコンプライアンス環境、さらなる透明性の要求に応えるため、企業がすぐにでも実施すべき手段について、EYでは6つを推奨している。

 

1. 税務リスクに対する戦略的アプローチ

 積極的な調査や移転価格調整への対策、税務に関わる風評に対する懸念、既存の経営構造や国境を越えたビジネス構造を検証するなど、どのような形態を取るにしても、企業はその準備をしなければならない。総合的、包括的でかつ、グローバルで徹底したアプローチを採用することにより、企業はモニタリングやコンプライアンスを強化するトップダウン式のガバナンス、システム、及びプロセスを通じて、係争が生じる前にそれを回避することができる。

 

2. 税金と風評リスク

 BEPSによって強化された報告や開示に関わる要求事項や、厳しい調査に対処するために、税務機能に新たに求められる十分な知識と人材、予算、その他必要なリソースを、税務部門に確実に整備させる必要がある。起こり得る風評リスクを評価し、企業の税務プロファイルが財務・風評という両方の問題に関わるものであることを、役員会や経営幹部が完全に理解していることが不可欠。

 

3. 税務係争を管理するグローバルアプローチ

 グローバルな税務調査管理体系やグローバルコンプライアンスのプラットフォーム、税務係争管理の報告体系、事前申請用ツールと経済のモデル化を利用することで、明確さ、信頼性に加えて、より多くの確実性が生まれる。グローバルなアプローチは、調査リスクの削減、慎重に期する問題に関連した調査へのより強力な統制、税務係争の積極的な管理、知識共有の拡大など、企業全体に利益をもたらす。

 

4. デジタル税務行政

 企業はデジタル税務行政という新しい世界の要求に応えるべくデジタル能力を強化する必要があり、新しいデジタルオペレーティングモデルの整備は不可欠。つまり、企業は確実に、税務当局のデータ要求を理解し、現地国の要求に応じて元データをフォーマットし、デジタル方式での納税報告を準備するための適切なツールを保持する能力がなくてはならない。

 

5. 裁判外紛争解決(ADR)

 係争回避には、税務当局とのより良い関係を構築する必要がある。もし係争が避けられない場合、申立て、訴訟、調停、仲裁などの紛争解決メカニズムの良い点と悪い点の両方を評価し、係争に関する一貫した哲学を確立することも必要。どのような環境下で紛争は解決、訴訟、それ以外の結果となるのかを導き出す。

 

6. 人・プロセス・技術

 社内における人・プロセス・技術をフル活用する。税務にかかる内部統制、係争管理、デジタル税務行政、連絡伝達について、明確な枠組みを確立する。税務部門によって直接管理できない税務問題がある場合は、その税務問題を取り扱う税務部門と事業部門との間で、良好に調整がなされていることを確認することが重要。


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