2018.03.15

電子たばこから炭酸飲料まで 世界の物品税最新事情

 これまで贅沢品や嗜好品が主に課税の対象となってきた物品税に、変化の波が押し寄せている。日本では1989年4月1日の消費税法施行により物品税そのものは廃止されたが、たばこ税や酒税といった個別消費税はいまでも税収の大きな柱になっている。

 

 物品税の歴史は長く、どちらかと言うと「古い税金」のイメージが強い。しかし、物品税が世界各国の税収全体に占める割合は高まっており、その重要度は年々増している。

 

 米国では、ガソリン、たばこ、酒を含む物品税の税収(州税)の合計が2014年で1,400億ドル(約15兆円)に達した。これは同じ時期の法人税収の3倍に当たる。そしてEYの調査によると、2010年から2014年にかけて物品税の税収が平均して4%増加した。

 

世界に広がる

 

 このような傾向は世界各地で見られる。租税当局が物品税に魅力を感じるのは、徴税がしやすいからだけではない。景気動向に連動しやすい法人税と比べて、物品税は経済の好不況の影響を受けにくく、実際10年前の世界金融危機でもその税収の安定性が威力を発揮した。

 

 EYの分析によると、経済協力開発機構(OECD)加盟国とアフリカ6カ国が2013年に集めた物品税は合計1兆ドル(約110兆円)に達した。これは、同じ年の法人税収の68%に当たり、付加価値税(VAT)の税収のおよそ半分に当たる。

 

 「物品税は租税政策におけるいわば脇役で、あまり注目されてきませんでした。しかし、モノやサービスによって発生する社会コストに対する認識が高まるにつれ、政府や人々の考えも変わりつつあります」と話すのはエラスムス・ロッテルダム大学のシーブレン・クノッセン名誉教授。

 

異なるアプローチ

 

 たばこ、酒、ガソリンは物品税の「御三家」と言われてきたが、何に、どれくらいの物品税を課税するかは国によって大きく異なる。

 

 例えばワイン。生産国のイタリア、ポルトガル、スペインではワインに物品税は課せられないが、ヨーロッパを北上すると状況が一変する。OECD発表の『消費税動向2016年(Consumption Tax Trends 2016)』によると、ノルウェーではワイン1リットルあたり7ドル(約760円)の物品税が課税される。

 

 アルコール度数の高いハードリカーになると、さらに重税になる。アイスランドではスピリッツ類に純アルコール1リットルあたり104.62ドル(約11,000円)の物品税が課される。これは、米国やカナダの10倍以上に相当する。

 

 「ガソリン、酒、たばこの課税が魅力的なのは、その徴収のしやすさにあります。比較的少ない数の会社から徴収することができ、納税額がいくらかも計算しやすいのです」とEYのシニアメンバーのウォルター・デ・ヴィット氏は指摘する。

 

 しかし、徴収しやすいからといって物品税をどんどん広げられるとは限らない。税務当局は経済や雇用への影響のみならず、社会的、倫理的要素も考慮する必要があることに加え、国境での検査や取り締まりがしっかりしていない国では、税率の違いが密輸を誘発することにも注意しなければならない。

 

拡大する品目

 

 節度が求められる物品税政策だが、実際のところ対象品目は増加の一途をたどっている。チョコレート、コーヒー、携帯電話、ごみ袋、清涼飲料水はほんの一握りでしかない。

 

 これまで「贅沢品」が物品税のターゲットとされてきたが、データアナリティクスを駆使し、特定の個人や集団の行動を分析することにより、特定のモノが社会に与える影響を「数値化」できるようになった。

 

 「私たちが何かをする時、例えば酒を飲んだり、たばこを吸ったり、環境を汚したりする時、他人や社会全体にコストをかけています。しかし、これらのコストは商品の価格に算入されていません。物品税はこれを補う手段なのです」とクノッセン氏は言う。

 

 エコノミストは、これを「外部コスト」と呼ぶ。例えば、喫煙者は病気になることもあれば、たばこの副流煙が他者を害することもある。

 

 物品税はさらに、社会に害悪を及ぼす行動を抑制するため政府が負担する政策的経費をカバーする側面もある。たばこ規制と公衆教育はまさにこれに当たり、この2つの相互補完的な政策的経費の支出により喫煙率の低下につなげている。

 

ソーダと肥満と糖尿病

 

 たばこ税の増税が喫煙率の低下につながっている点に着目し、物品税が他の悪習慣の減少に効果があるか、各国政府は新たな試みを進めている。

 

 物品税が課税される調味料といえば古くから塩があったが、近年砂糖がターゲットになっている。それも、砂糖そのものではなく、清涼飲料水や糖分を多く含んだ商品を課税する。

 

 肥満や糖尿病の広がりで保健医療費が上昇するなか、各国の政府は加糖飲料に税金をかけることにより、メーカーに商品の砂糖含有量を減らすことを促し、消費者に対してもより健康的な飲み物を選ぶように推奨する。

 

 しかし、問題はそう単純ではない。物品税は時として、消費者からの思わぬ反発や予期せぬ結果を生む。米国シカゴのクック郡は2017年夏にいわゆる「ソーダ税」を導入したが、数カ月で廃止に追い込まれた。税金を払いたくない住民が別の郡まで買い物に行くようになったからだ。

 

 このような状況が起きると、清涼飲料水から得られる税収を逃すだけでなく、ソーダ税を導入しなければ得られたであろう他の食料品の消費税まで逃してしまうという本末転倒の結果が生まれる。

 

砂糖と税

 

 英国で「砂糖税」が導入されるのは今年4月だが、企業はすでに着々と準備を進めている。清涼飲料水メーカー各社は税金を避けるため、製品の砂糖含有量を最大50%下げている。

 

 国民の健康増進という点では朗報かもしれないが、税収面では決して喜べない。政府の試算によると、砂糖税の税収は当初予想より27%低い3億8千万ポンド(約570億円)になると見ている。

 

 それでも、フィリップ・ハモンド財務相は砂糖税が肥満という国民病の克服に良い影響をもたらしていることを「喜ばしい」と述べた。

 

 世界保健機関(WTO)によると、ソーダ1缶に最大で小さじ10杯の砂糖が含まれているという。これは1日の推奨摂取量の小さじ6杯を大きく上回っている。

 

 メキシコは2014年に「ソーダ税」を導入し、炭酸飲料、果汁飲料、アイスティーに税金を課すようになり、加糖飲料の売上げが2年連続で減少した。

 

温室効果ガス

 

 地球温暖化を食い止めるため国際的な連携や取り組みが加速するなか、世界各国は物品税を通して温室効果ガスの排出を削減できないか実験している。気候変動抑制に向けたパリ協定に署名した190を超える国と地域は、温室効果ガス削減の実現のため環境税や排出取引といった手段を用いている。

 

 昔から贅沢品の象徴であった自動車は、物品税の「本丸」とされてきた。購入時、登録時、使用時に様々な税金が課せられ、所有者はガソリン税、道路使用税や高速道路料金を通じて税金を負担してきた。
現在、環境性能が高い電気自動車やハイブリッド車に税制面で優遇する国が少なくない。米国では、プラグイン電気自動車の購入者に2,500ドル(約27万円)から7,500ドル(約81万円)までの税優遇を与えられている。

 

 前出のクノッセン氏は、各国の政府は今後も航空用燃料から船舶用燃料に至るまで、燃料税を幅広く増税していくと予想する。化石燃料を燃やすことにより発生する「外部コスト」を吸収するためだ。

 

紙巻きから電子たばこへ

 

 紙巻きたばこが主流だった時代、たばこ税の課税はそれほど複雑ではなかった。ところが、電子たばこや加熱式たばこの登場により、租税当局は頭を悩ませている。

 

 「電子たばこは紙巻きたばこと同様に課税されるべきか?」この問いに対し、米国の8つの州では課税するべきとの答えを出し、欧州のいくつかの国でも同様の動きがある。しかし、大多数の国々では消費者の行動パターンや健康被害に関するデータの蓄積が充実するまで、積極的に課税しようと動いていない。

 

 歴史的に見て、国がたばこを重点的に課税してきたのは「嗜好品」だからだ。たばこを生産する会社や輸入する会社が比較的少なく、税金を徴収しやすかったという理由もある。

 

 喫煙で死に至るということが科学的に証明された現在、多くの国では能動喫煙から受動喫煙まで、たばこが社会にかけるコストをカバーするためたばこ税を増税してきた。

 

 では、電子たばこは紙巻きたばこより本当に害が少ないのか?確かに電子たばこは紙巻たばこに比べて発がん性物質が少ないとされるが、有害で依存性が高いニコチンを含有するものも多い。最近の研究によると、ニコチンを含有する電子たばこの方が心臓発作や脳卒中を引き起こすリスクが高いとされ、肺への害も大きいとされる。

 

 政府が電子たばこの課税を導入する場合、その有害性だけでなく、課税の是非そのものや税金の範囲、計算方法も検討しなればならない。

 

 いまのところ、各国はそれぞれ違ったアプローチを取っている。米国の一部の州では卸売価格をベースとする一方、たばこそのものをミリリットル単位で課税する地域もある。

 

 いずれにせよ、電子たばこの課税については今後も不透明な部分が多いのは否めない。

 

格差問題と向き合う

 

 物品税が国民の支持を得るためには、政府に周到さと慎重さが求められる。物品税は本来、逆進性が高く、所得の低い世帯ほど負担が重くのしかかる。格差問題が地球規模で問題となっている現在、なかなか国民の理解を得られない場合が多い。

 

 物品税がこれまで税収の大きな柱になり得たのは、塩やたばこのように需要が安定している物に課税されてきたからだ。いまでは、むしろ消費を抑制したり、行動の変化を促したりする道具へと変わりつつある。

 

 例えば加糖飲料にかかる物品税は肥満対策に用いられ、ガソリンで走る車にかかる税金や環境性能が高い車に与えられる税優遇策は消費者により環境に優しい車を選ぶことを促すという目的がある。

 

 これらの新しい物品税は、消費行動を変えるだけでなく、企業収益にも影響を及ぼしている。物品税の新たなトレンドは今後、企業戦略やビジネスモデルの変革の大きな原動力となる可能性を秘めている。


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