2018.06.18

投資家は税制改正法(Tax Cuts and Jobs Act)に期待

主要株式市場の株価は過去最高水準に

 

 「Tax Cuts and Jobs Act」(以下同法)と称される米国税制改正法案が、2017年12月22日に成立した。米国内国歳入法を抜本的に修正し、法人税率の大幅な引下げ、法人・個人双方の税額控除及び所得控除(損金算入)の変更、海外子会社からの配当を非課税とするテリトリアル課税制度への移行などが盛り込まれている。

 

 多くの投資家は、新たな税制による変化を好意的に捉え、主要株式市場の株価は過去最高水準に達した。しかし、一部の投資家はまだ慎重で、同法が将来的に修正される可能性が高いと見ている。

 

 今のところ、投資家が企業価値を評価するための手法に変化は見られない。同法が複雑であるため、企業経営にどのように影響するのかが明らかではなく、変化をどのように評価するかを見定めるには、まだ時間がかかるだろう。

 

収益価値に対する評価変更のポイント

 

 投資家が企業価値を判断する手法の1つが、収益価値を基準とするものだ。これは、事業の収益性やキャッシュフロー予測に基づく。

 

・キャッシュフロー

 税率だけでなく、課税所得の計算方法も変更された。土地や建物などの固定資産に対する支出の取扱方法が変わり、支払利息に対する税控除にも制限が設けられた。米国の国内外で研究開発費の償却方法も変わった。こうした変更により、これから将来にわたっての正確なキャッシュフローを算定することが難しくなっている。

 

・割引率

 キャッシュフローを計算する際の割引率は、資本構造の中での負債比率と自己資本比率を加重平均することで計算される。

 

 税率引下げは、負債コストと自己資本コストの双方に異なる形で影響を及ぼすことから、加重平均資本コストの算出が複雑になった。さらに負債を利用した節税が制限されたため、今後の加重平均基本コストが、以前に比べて上昇、あるいは下降するかどうかは、対象企業が負えるレバレッジ(負債比率)、いわゆる“体力”次第である。

 

・残存価値

 各種減税やいくつかの規定は、短中期で米国経済を成長させるための一時的な処置である。そのため、それによる変化が将来どのように影響するかを判断するには、細心の注意が必要だ。

 

市場株価に対する評価変更のポイント

 

 もう1つの手法が、市場株価を基にした企業価値評価だ。対象企業と同業他社との比較、あるいは対象企業の業界、関連業界の最近の市場における取引価格を比較する。

 

 今回、主要株式市場において株価が上昇したのは、法人税率引下げに加えて、上場企業の業績が好調であることと、それによる米国経済成長の見通しがたったことによるものだ。大部分の企業が税率引下げの恩恵を受けると予想されるものの、それが各企業にとってプラスになるかどうかは、まだわからない。

 

・純営業損失の控除

 純営業損失規定において、以下の2点が変更された。1つは、2017年12月31日以降にスタートした会計年度に発生した欠損金は、無期限に繰り越せるが、繰り戻すことはできない点だ。2つ目が、各年度における繰越欠損金の控除額が変更されたこと。この2点により、現在の繰越欠損金をどう捉えるかが変わってくる。

 

・海外資産に対するみなし配当課税

 米国はテリトリアル税制へ移行し、海外子会社の利益は米国の課税対象とはならなくなった。そのため、新税制への移行に当たり、海外における現金及び非現金資産を配当として米国に戻したとみなされ課税されることになる。

 

 上記2点により、企業のバランスシート上の現金やその他資産に対する評価は、これまでと同じ基準では計れなくなった。

 

将来のビジネス成長の見極めが難しい

 

 同法による変更の多くは、多国籍企業への影響が大きい。しかも、特定の規定は、今後さらなる変更や失効の可能性がある。企業の将来に対する予測が難しくなり、投資家は、新税率を踏まえて算出された予想利益に対して懐疑的にならざるを得ない。その結果、要求利益率を高くするために利益の一部が相殺されるようなことが出てくるかもしれない。


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