2018.07.02

米国の税制改革で、世界中の企業が戦略の立て直しを迫られる

米国の多国籍企業に対する税軽減

 

 米国では、長年にわたる紆余曲折の末、ようやく抜本的な税制改革法(Tax Cut and Jobs Act)が成立した。法人税の最高税率が従来の35%から21%に引き下げられたことで、米国政府は、国内経済が大きく飛躍すると期待している。

 

 EYの新たな分析では、この税制処置によって、米国の経済成長率は2022年まで年1.2%で上昇し続け、規定の一部が失効するころには経済全体が新法による変化に適応し、その後は穏やかに成長し続けると推測している。

 

 ただ、この新たな租税政策は、多くの企業の短期的なキャッシュフローや利益を押し上げはするものの、長期的な競争力や成功をもたらすかどうかは不透明だ。

 

 従来の制度では、米国の多国籍企業の全世界における所得すべてが課税対象だった。つまり、現地と米国での二重の税負担を強いられていたのである。ただ、利益が米国内に戻されず海外に留保されている限り、この課税を無期限に繰り延べすることができた。そのため、2016年のCapital Economicsの調査レポートによれば、海外に留保された現金は2015年に2兆5,000億米ドル近くに達していたという。

 

 新たに導入されたテリトリアル課税制度では、海外の利益に対して現地で税を払えば配当として米国内に戻されても非課税となる。米国の多国籍企業の税負担分を減らすこの制度により、上記の問題が解決できると考えられている。

 

ビジネスモデルの戦略的見直し

 

 そして、支払わずに済んだ税金分の使い道として期待されているのが、労働者の雇用拡大、賃金引上げ、新たな工場や事務所の建設などへの投資である。年間収益5億米ドルを超える米国企業の経営幹部500人に対するEYの調査では、47%が研究開発費の拡大、46%が株主への資本の返還、42%がM&Aへの投資と回答している。

 

 こうした状況を踏まえ、EYのナショナル・タックス部門のイヴォンヌ・メカトーフ氏は、「新法をきっかけに、企業は、自社のビジネスモデルや経営モデルについて、より幅広い戦略的視点からの見直しを迫られている」と語る。

 

 今回の税制改革によって、企業の自己資本に対する負債水準の考え方が変わりつつある。債務に対する支払利息の損金算入額の制限と、法人税率の引下げに伴う節税効果が縮小したためだ。EYのレポート、Making capital allocation decisions in light of US tax reformでは、上場企業の債務額が最大25%ダウンする可能性があると予測している。

 

 EYアメリカスのトランザクション・タックス・リーダーであるトースドン・プーン氏は、「企業は、ビジネス全体で持続可能な価値を創造できるよう、自己資本を効果的に投資しなければならない。各事業への投資を軒並み増やすだけでは、企業価値を破壊するプロジェクトを抱える結果に陥る」と警鐘を鳴らす。

 

細部にわたる新たな税と制限

 

 新税法には、米国の多国籍企業と外国の多国籍企業の両方を対象とした新たな規定が含まれている。米国企業から海外の関連企業に対して行われる特定の支払いを税対象とするグローバル軽課税無形資産所得(global intangible low-taxed income:GILTI)に対する最低課税と、税源浸食濫用防止税(base erosion anti-abuse tax:BEAT)だ。

 

 また、上場企業に対しては、特定の従業員に支給した報酬の損金算入に新たな制限を設けている。対象となる従業員数を拡大するとともに、業績連動報酬の適用除外を廃止した。企業は、既存の報酬制度が新法の下で適用できるかどうかを細心の注意を払って確認しなければならない。

 

さらなる変化への備えが求められる

 

 EYのGlobal tax policy outlookによれば、法人所得税の引上げと税基盤拡大の動きは、世界中で広がりつつある。今後、別の経済大国の税制改革によって状況が一変し、企業戦略のさらなる見直しを余儀なくされることもあり得るだろう。

 

 重要なのは、ある国の名目税率だけでなく、その先に目を向けることだ。企業にとって、税務は単なる税金の問題にとどまらず、ビジネスの意思決定の一環として、継続的に対処、検討していかなければならない大きな課題なのである。


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