2018.07.10

法人税引下げで米国企業がM&Aに意欲

M&Aに前向きだが
貿易リスクなどに配慮も

 

 トランプ米政権下での税制改革を受け、多くの米国企業がM&Aに積極的な姿勢を示している。経営幹部を対象にしたEYの調査によれば、42%の回答者が減税効果で得た余剰資金をM&Aに利用する予定であることがわかった。そのうち中堅企業が82%と最も積極的であり、次いで大企業が72%、小企業では69%となっている。

 

 だが、多くの企業はM&Aを急激に増やそうとしているわけではない。割高になりがちな大型買収を躊躇(ちゅうちょ)する企業があるほか、法規制リスクや貿易リスクの増大もM&Aを慎重にさせている。米国は今年に入って、アルミニウム・鉄鋼製品、太陽電池パネル、洗濯機の輸入に関税を導入し、中国企業が製造する商品には500億米ドルの追加関税を課すと発表した。さらに今年3月には、トランプ米大統領が米国の安全保障を理由に、シンガポールに本拠を置くブロードコム社による米クアルコム社の敵対的買収を阻止する大統領令を発令している。こうした情勢を受け、多くの企業ではM&Aに前向きなものの、今回の税制改革がビジネスにどのような影響を及ぼすのかを注視している。

 

海外資金を米国に還流させ
国内向け投資が活発化

 

 とはいえ、企業にとって法人税減税はM&Aを実行するうえで、大きな意味がある。EYグローバル・トランザクション・リーダーのジェフ・グリーン氏もこう解説する。

 

 「M&A戦略は、経営陣、市場、生産拠点、研究開発拠点などの基本的な要素をもとに決定されますが、20年近くにわたりG7平均より高かった米国の法人税が35%から21%に引き下げられたインパクトは大きく、米国企業の投資判断を必ず前向きにさせるはずです」

 

 また、今回の税制改革で、米国企業は海外子会社が保有する不動産などの低流動資産については8%、税制改革前の収益に起因する現金については15.5%の税金を一度支払う必要がある。さらに今後、国外での収益は、米国の法人所得税ではなく、グローバル軽課税無形資産所得(global intangible low-taxed income:GILTI)の対象となるため、国外に現金を保有するメリットはほとんどなくなる。

 

 米国商工会議所のウェブサイト記事でも、チーフエコノミストのJ.D.フォスター氏が次のように語っている。

 

 「多くの企業は今、米国内のビジネスの拠点を減らすどころか、より多くの事業を米国へシフトする方法を模索しているのです」

 

複雑な税制改革は
どんなメリットをもたらすか

 

 ただ、今回の税制改革は、一見、M&Aでの企業価値評価を高めるように見えるが、資産を正確に評価するためには、資本費用の扱いの変更や、支払利息の損金導入の新たな制限といった複雑な変更内容がキャッシュフロー計算や最終的な企業評価にどのような影響を与えるのか見極める必要がある。また、資金調達についても、法人税引下げによって債務に関連する旧法のメリットが薄まるため、資金調達を全体として見直すことも不可欠だ。米国企業はM&Aについて、国内企業の買手又は売手、米国以外の企業の買手又は売手の2つの観点から検討すべきだ。EY Americas(北・中・南米)のトランザクション・タックス・マーケット・リーダーのアウリ・ウェイツ氏は次のように語る。

 

「税制改革によって、買手と売手がどのような影響を受けるのか。米国内の企業では、その対応策が固まりつつあります。改革のメリットがわかるにしたがって、M&Aの動きは今後活発になっていくでしょう」

 

税制改革は持続
M&Aは効果的に

 

 今、多くのM&A担当者の関心は、税制改革の寿命にある。もし他の国が米国の法人税減税に追随すれば、減税効果が低減するし、米国議会が税制改革の一部を修正する可能性もある。だが、大幅な変更が生じる可能性は低い。仮に米国議会で修正の動きが出たとしても、今以上に手を入れる余地はほとんどないと前出のグリーン氏は指摘する。

 

 今後、多くの企業はM&Aにどう対処すればいいのだろうか。まず米国自体が相対的に高税率の国ではなくなったということを前提に基本戦略を再考する必要がある。そのうえで、事前に、複雑な変更事項を慎重に分析しなければならない。さらに売手は、米国以外の買手と米国の買手のどちらに売却すればメリットがあるのか。税効果と企業価値評価の違いについて調べることが重要になる。


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