2016.07.14

BEPSは「調査の時代」 求められる移転価格の対応

 課税逃れ防止の新しい国際ルールBEPSを採用する国・地域が増える中、企業も対応に追われている。特にグローバルにビジネスを展開する企業の多くは、移転価格の対応を急いでいる。

 

 「BEPSの時代は、調査の時代」。ある税務エキスパートは、BEPSで始まる新時代をこう表現した。各国の税務当局は、BEPS導入によりグローバルな移転価格関連情報を事前、広範に保有できるようになるからだ。

 

 調査の時代に入り、企業はグループ内での所得の配分や課税の状況を本社所在国のみならず、子会社所在地の税務当局に把握されることになり、税務調査や税務紛争のリスクが高まることを意味する。

 

 そもそもBEPSの本質は、「課税対象所得の歪んだ配分の防止」とそのための「企業グループ活動に対する情報収集システムの構築」であり、情報収集ネットワークを構築することによって企業の申告水準を牽制することにある。

 

 このような目的は、OECD(経済協力開発機構)が主導するBEPSプロジェクトの行動計画13で規定された国別報告書(CbCR)、マスターファイル、ローカルファイルで達成されることになり、移転価格調査は新たな段階に突入したといえよう。

 

国別報告書等への対応

 

 BEPSの移転価格文書のスタートで、日本企業は何をしなければならないのか。

 

 まず、一定規模以上の企業の親会社はグローバルな数値情報を含んだCbCRを毎年、作成・提出しなければならない。これが租税条約上の自動的情報交換システムを経由して、子会社所在国の各税務当局に提供される。

 

 そして、グローバルなサプライチェーンや、無形資産、そして金融を含んだ移転価格ポリシー等が記載された事業概況報告事項(マスターファイル)についても、各国の法令で提供が求められることになる。このように、グローバルな企業情報が、拠点を有する各国の税務当局に提供されることになる。

 

 また、子会社所在地国で作成されるローカルファイルについても、BEPSを契機に各国税務当局間の税務執行協力体制が強化され、租税条約に基づく情報交換がこれまで以上に積極的に行われていく可能性が高い。

 

 BEPSの移転価格文書と自動的情報交換インフラの構築により、日本の税務当局は事前、広範に情報を入手することができるようになり、これにより調査対象企業の選定の精度も向上することになる。企業は調査対象となった場合、従来以上に厳しい対応を迫られるケースが多くなると予想される。

 

垂直的かつ水平的情報の共有

 

 BEPSの移転価格文書で影響を受けるのは、日系企業は本社所在国である日本だけに留まらない。子会社所在国の税務当局により現地での移転価格調査についても、かなり大きな質的転換が起きると考えられる。

 

 国別報告書、マスターファイル、ローカルファイルの三本柱で各国の税務当局は、親会社の機能・リスクについてより詳細な情報を得ることができると同時に、横並びで自国所在の子会社と他国所在の子会社の利益水準や一人当たり利益水準等を分析して、自国所在の子会社の課税に役立てることが容易になった。

 

 移転価格問題の本質が親子会社間の所得の配分であることに鑑みれば、垂直的(親子会社間)及び水平的(子会社間)な機能・リスク分配情報は外国税務当局にとって、非常に強力な武器となるはずだ。

 

 これにより、海外にあるグループ子会社の税務当局はグローバルな事業活動に係る情報に基づいた質問や資料提供依頼を行うことになり、従来のような現地子会社任せの対応にも限界が来ている。

 

 外国税務当局からの資料提供依頼に対し、日本の親会社で準備しなければならないものも増えるだろうし、何よりグローバルな移転価格ポリシーの中で、調査対象となっている国外関連会社との取引を位置付けた上で、質問に対してどう回答していくのがいいかの判断が求められることになる。

 

 したがって、国内企業はこれまでのように海外のグループ会社が直面する税務調査や税務紛争といった具体的リスクの対応を現地任せにするのではなく、日本本社が情報を集約・把握し、本社主導でグローバルな視点から対応策を打ち出す必要がある。

 

海外企業の現場では

 

 各国におけるBEPSの導入には不確定な要素が多く、様子見のスタンスを取る企業が少なくないのも事実。これにより無駄な労力やコストを抑えられるという考えも成り立たないわけではない。

 

 しかし、準備を先送りすることで劇的に変化する税制に短期間で対応しなければならなくなり、結果的により大きな税務リスクを負う可能性もはらむ。

 

 むしろ戦略的なアプローチでBEPSの影響を分析し、それに対応した税務体制を組むことにより、将来の税務紛争の芽を摘むことができると専門家は言う。

 

 特に移転価格文書の本丸であるCbCR対応には、多くの時間とリソースが必要だと海外の企業担当者は指摘する。

 

 「国別報告書の導入には大変な労力がかかった」と英語版Tax Insights誌に語ったのは、スペインのエネルギー複合企業レプソルで税務を統括するスサナ・ボコボ氏。

 

 「必要なITの変更をするだけでも巨大なプロジェクトだった。会計システムの項目は数が多く、国別報告書の各項目が何を意味するのか解釈して、その意味を事業に適用する必要があった」

 

 仏製薬会社サノフィもBEPS対応で先手を打つことの重要性を強調している。税務担当のキャサリン・ヘントン氏も同誌に、こう述べている。

 

 「BEPS行動の内容に照らし合わせて税務戦略に取り組んでいる企業が多いと思われる。サノフィも例外ではなく、まだ道半ばではあるが取り組んでいる。移転価格も見直し、クロスボーダー取引を単純化することによって、関与する企業と国の数を減らしている。BEPSの導入に伴い、将来的に訴訟となる可能性のある国・地域の数を最小限に抑えるため」

 

 BEPS時代の幕開けで始まる調査の時代。つまびらかになる移転価格情報をいかに本社主導で収集、コントロールするかが今後、税務管理の巧拙を決める鍵になるかもしれない。


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