2016.03.13

戦略的人事が拓く未来

 「戦略的人事」という言葉を聞いたことがあるだろうか。戦略的人事とは、これまで管理部門の一翼を担うバックオフィス的要素が強かった人事部を強化させ組織内での地位を高め、人事リーダーを積極的に経営に参加させようという試みだ。

 

 企業のトップといえば、最高経営責任者のCEO(Chief Executive Officer)や財務を司るCFO(Chief Financial Officer)を思い浮かべる人が多いかもしれないが、先進的なグローバル企業では人事トップであるCHRO(Chief Human Resources Officer=最高人事責任者)の役割を再定義しようという動きがある。

 

 「CHROは、給与・福利厚生といった事務処理サービスを問題なく遂行すること以上に、革新と成長を実現し得る新たな方法で人材面での課題を特定し、人材のサプライチェーンを生み出すことを求められています」、EYがハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard Business Review)と合同で発表したレポートには、こう書かれている。

 

 これまで企業の司令塔はもっぱらCEOとCFOの関係性が語られてきたが、人材が企業の重要課題へと変化したことに伴い、CHROは企業トップの「ゴールデン・トライアングル」の一角を形成しつつある、とランカスター大学経営学部・上級講師のアンソニー・ヘスケス氏は指摘する。

 

 つまり、CHROがCEOとCFOと一緒に非公式の連合体を構成し、戦略、財務、人材に関する問題を融合させビジネス戦略に落とし込んでいくというのだ。

 

人事リーダーに求められる資質

 

 しかし、人材管理のスペシャリストである人事リーダーが戦略的人事という命題の下、経営の中枢でCEOとCFOと同様のリーダーシップすることは容易ではない。

 

 この点について、タレントマネジメント・ファームのDDI(ディベロップメントディメンションズインターナショナル)は、興味深い調査を発表している。企業のあらゆる部門のオペレーション及び戦略における3万件の体系的な行動評価を集計したところ、人事部門のリーダーのスコアが他の部門のリーダーを下回る分野が主に4つあることが分かった。

 

 最下位が「ビジネス手腕」で、以下「財務面の洞察」、「グローバル洞察」、「顧客フォーカス」と続いた。この調査から、多くの人事リーダーはビジネス全体を俯瞰し分析する知識や能力が不足しているということが読み取れる。

 

戦略的人事の組織的課題

 

 戦略的人事を構築する上で障害となるのは、人事リーダーの資質だけではない。

 

 グローバル化の進展により人・モノ・情報・マネーが容易に国境を越え、世界を駆け巡る時代になったが、多くのグローバル企業はいまだに「人」を戦略的に管理・配置し、経営資源として最大限に生かす体制を構築できていないという組織構造的な課題がある。

 

 EYは毎年、「Global Mobility Survey」国際間人事異動に関する調査を世界主要企業200社以上に行っている。2015年の最近結果によると、回答者の45%が人事管理をサポートするテクノロジーがない、または乏しいと答えた。

 

 さらに、回答者の93%が海外勤務の人事がうまくいったか否かを評価することの重要性を認識していながらも、72%の企業は海外出向の決定が正しかったか否かを評価する追跡調査ができていないと回答した。



 次回では、日本における戦略的人事の現状と課題について報告する。


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