2016.06.10

もし、英国がEUを離脱したら(前編)経済的影響

 「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」。この名セリフを残したのは、シェイクピアのハムレット。そしていま、英国が直面しているのは、「EUに残るべきか去るべきか」という問題だ。英国の欧州連合(EU)離脱の賛否を問う国民投票の6月23日木曜日が近づくにつれ、世界の注目が日増しに高まっている。

 

 複数の最新世論調査によると、離脱賛成と反対がともに40%台で拮抗しているものの、離脱支持の割合が反対を若干上回っており、予断を許さない状況が続いている。

 

 離脱支持派は、EUの厳しい規制が経済活動の自由度を下げている、加盟に必要な年何10億ポンドにも及ぶ費用の割に恩恵が少ない、移動の自由により移民の数が増加している、といった主張を展開している。

 

 しかし、キャメロン首相をはじめ16人の閣僚は残留を支持しており(離脱支持は5人)、EU加盟により域内におけるヒト・カネ・モノの移動の自由が保障されることから、財界も残留支持派が優勢だ。

 

マクロ経済への影響

 

 仮に国民投票で英国のEU離脱が決定されれば、経済的・政治的不確実性が急速に高まり、経済活動は停滞すると多くの専門家は見る。

 

 マクロ経済への影響については英国財務省がすでに短期的分析と長期的分析を公表している。短期的分析は、投票結果から2018年6月までの2年間における悪影響を検討し、EU離脱が決まった場合、移行に伴う効果、不確実性による効果、及び財政に係る効果の3つが組み合わさった経済的効果が生じると財務省は見ている。

 

 その上で、「ショック・シナリオ」と「重大ショック・シナリオ」の2つのシナリオを想定し、GDP(国内総生産)成長率3.6%~6.0%の押し下げや、住宅価格10%~18%の下落等のマイナスの影響を想定している。

 

 さらに2030年までの影響を検証した長期的分析によると、最悪のシナリオではGDPが7.5%押し下げられ、一世帯当たりのGDPが5,300ポンド(約821,500日本円)減少し、財政収支が450億ポンド(約7兆円)減少するという試算が出された。

 

 つまりショックの程度、期間の長短に関わらず、EU離脱は景気を減速させ、資産価値を下落させ、財政を悪化させるというのが政府の見解だ。

 

離脱の影響 企業活動にも

 

 EU離脱のインパクトはマクロ経済のみならず、ビジネスにも波及することが懸念される。

 

 為替は様々な要因で変動するので、EU離脱のポンドに対する影響を事前に定量的に予測するのは困難である。しかし、財務省が予想するようにポンドが10%以上下落した場合、英国法人・個人に貸し付けたポンド建て債券や英国の法人・個人が借り入れた非ポンド建て債務に相当程度損失が生じることになる。

 

 このような為替の変動により、グローバル企業は通貨ヘッジや資金調達、キャッシュフロー等の財務戦略の練り直しを迫られるだけでなく、調達やサプライチェーン、製造・研究開発の立地や人事異動といったビジネス戦略の再考を求められる可能性がある。

 

 また、EU離脱の企業への影響は、以下のようなことが指摘されている。

 

 例えば、EU離脱により欧州の航空会社コストが上昇し、便数をかなり減らす可能性がある。英国の労働市場が縮小し、規制制度の利用に関する費用が上昇するためだ。コストと賃金の上昇や労働力の不足は、小売業をはじめとした幅広いセクターにマイナスの影響があると考えられる。

 

 労働力の不足は外国人労働者の比重が大きい建設業を直撃する。政府が掲げる年間23万戸の新築住宅建設の目標を達成するには、英国はさらに13万人以上の労働者が必要となる。英国の建設産業の労働力の約8%はすでに英国以外のEU加盟国出身者により構成されており、EU離脱の結果として生じる労働力供給市場に対する衝撃は、コストの上昇と生産能力の低下を招く可能性があると指摘する専門家もいる。

 

※次回「もし、英国がEUを離脱したら(後編)」は、税への影響を検証します。


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