2016.06.20

もし、英国がEUを離脱したら(後編)税への影響

 英国がEUから離脱するブレグジット(Brexit)が6月23日の国民投票で現実のものとなった場合、その影響は経済に留まらないと多くの専門家は見ている。景気減速で財政が圧迫され増税せざるを得なくなる、EUの枠組みから外れることにより関税が影響を受ける、といった「税」へのインパクトが注目されている。

 

 すでにオズボーン英財務相は、ブレグジットの経済的打撃により国の財政に300億ポンド(約4.5兆円)の「ブラックホール」が生じ、大幅な歳出削減と所得税や相続税などの増税が不可避になる、と警告している。

 

 何よりブレグジットの負の側面が強調されるのは、離脱のプロセスにおける不確実性にあるといえよう。国民投票の結果が「離脱」の場合、どうなるかに関して定められた手続きや日程表はこれまでなかった。投票から約1週間前の6月15日に離脱派が工程表を発表したが、残留派は「根拠に乏しい」と批判している。

 

離脱にともなう不透明感

 

 加盟国離脱は、EUがいまだかつて経験したことのない事態だ。この未知のプロセスを英国、EU双方が踏むことになり、見通せない部分は多い。

 

 英国がEUから離脱する際に根拠となるのは、EU基本条約(リスボン条約)第50条とされている。この規定によれば、EUは当該加盟国と交渉し、当該加盟国と欧州連合の将来的な関係の枠組みを考慮に入れながら脱退に関する取り決めを定め、合意を締結することになる。

 

 キャメロン首相は、第50条が離脱プロセスを開始する唯一の方法であると述べており、英国政府もこの条項がEU離脱の唯一の適法な方法である、との見解を繰り返し示している。しかし離脱賛成派は、英国は必ずしもリスボン条約第50条のプロセスを用いる必要はなく、別個のプロセスで合意できると示唆しており、離脱の「入口」の部分から不透明さが漂う。

 

関税制度の仕切り直し

 

 ブレグジットの影響が一番大きく出ると予想される分野の一つのが、貿易だ。

 

 英国は、EUの枠組みから出ることによりEUの対外共通関税の課税対象になるほか、非関税障壁の可能性に直面することも意味する。また、英国はEUの二国間貿易協定を引き継がないことから、EU域外の地域と貿易協定の交渉を行う必要がある。

 

 EU離脱後の英国の貿易ルールは世界貿易機関(WTO)加盟国の地位が依拠されると見られているが、ブレグジットにより英国はEUとの新たな協定を結ぶのみならず、EU以外の世界各国との通商関係を再構築するという二重のプロセスを進めなければならない。

 

ノルウェー、トルコ、スイスがモデルに

 

 EU離脱後、英国が取り得るEUとの関係のモデルについては、(1)EEA(欧州経済領域)モデル、(2)トルコモデル、(3)スイスモデル等が提唱されている。

 

 (1)のEEAは、EUに加盟することなくEU単一市場にアクセスできる包括的な枠組みで、ノルウェーやアイスランドがその例になる。しかし、このモデルだと英国は実質的にEU規則の大半を国内法に反映しなければならず、EUに対する多額の財政拠出を行う必要がある反面、EU規則の決定プロセスには関与できない。

 

 (2)は、(1)より限定的な関税関係となり、これにより無関税でEU市場にアクセスできるが、サービス、人、資本の自由移動は原則として対象外となる。このモデルでは、EUに対する財政拠出義務を負わない反面、関税同盟を結んでいる以上、EUの貿易政策に追随しなければならず、独自に第三国とFTA(自由貿易協定)を結ぶことができない。また、EUの関税政策の立案・設定プロセスにも関与できない。

 

 (3)のスイスモデルは、包括的協定ではなく、特定の分野ごとに個別にEU単一市場にアクセスを求める方式で、スイスの場合、100以上の個別協定が締結されている。高い次元でのサービス、人、資本の自由移動の実現が求められることから、EU同盟国同様に財政拠出が必要となるが、他の2つのプランと同じく、EU規則の決定プロセスには関与できない。

 

 これらの3つのプランが示すように、離脱後の英国がEUとの無関税貿易の恩恵にあずかろうとすれば、一定程度EUの規則を受け入れなければならず、EUのしがらみから解放する、という離脱本来の趣旨と矛盾することになり、英国は難しい選択を迫られることになる。

 

間接税への影響

 

 EU離脱により影響が出るとされるもう一つの主要分野が間接税。特に、現在EUの枠組みにより最も統合されている付加価値税(VAT)は影響が予想される税だ。

 

 現在、英国のVAT制度はEUの法規によって高度な統一が図られており、欧州の解釈に整合するように自国の税制を改正することを余儀なくされてきた。

 

 EUのVAT指令(指令=EUの法源の一種)は英国国内法に反映されているため、EU離脱によりVAT関連規則が無効になる訳ではない。しかし、離脱した場合、VAT指令に従う必要がなくなるため、税率や免税の取扱いに関して柔軟性が増す可能がある。

 

 たばこや酒類に課される物品税についても、EUレベルである程度の統一が図られており、EU物品税規則も自動的に無効にはならないが、ブレグジットで国内法を自由に変更できるようになり、柔軟性が増す見込みだ。

 

 EUの制限を受けずに自国の税法を改正する余地が拡大することにより、英国は間接税以外にも、個別的な租税回避防止策の導入、英国の活動のみに焦点を合わせたR&Dなどのインセンティブや、これまでEU法で制限されていた出国税(居住者が海外に移住する際、保有する有価証券の含み益に対して課税する制度)の設定も可能になる。

 

 ブレグジットによる英国の税制の変化は、国内外の個人・法人に影響する。グローバル企業は、国民投票の結果とその後の展望に応じた自社のリスクの度合いと機会を評価し、対応を求められることになるだろう。


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