2016.09.15

二重課税、不確実性…税逃れ対策新ルールで聞こえる財界の懸念

 G20首脳がメキシコのリゾート地、ロスカボスで経済協力開発機構(OECD)に対して租税回避を食い止めるための対策を講じるよう注文したのは、2012年6月。あれから4年以上が経過し、BEPSプロジェクトは着々と進んでいる。

 

 各国の税務当局が準備を急ぐ一方、国内外の経済界からは懸念の声が高まっている。企業の要望や意見に目を向けると、「二重課税」や「不確実性」といったキーワードが浮かび上がってくる。

 

 日本では今年4月、経団連がBEPSに関する提言を発表した。「(OECDの)勧告の実施・解釈において各国で不整合が生じ、国際協調を反故にする一国主義的な動きが出る場合には、事務負担の一層の増大に加え、二重課税のさらなる拡大が懸念される」との見解を示した。その上で、政府には租税回避の防止の視点のみならず、コンプライアンス・コストとのバランスといった企業の競争力強化への配慮を求めた。

 

紛争リスク増大に憂慮

 

 海外企業もBEPS導入により、さらなる二重課税のリスクに晒されることに憂慮を示している。スウェーデンのボルボで法人税関連を統括するジェスパー・バレンフェルド氏は、「規則がより曖昧で複雑、しかも調整が十分に取れていない場合、実際これら全てがBEPSプロジェクトに当てはまるが、このことは間違いなく衝突と二重課税につながる」と述べている。

 

 さらにBEPSの不確実性についても言及し、これが結果として税務紛争のリスクを高めているとも指摘している。「良い税務政策は、明確で整備された規則によって、納税者を望む方向へ促すものである。これはBEPSプロジェクトの構想としてはあるものの、十分な分析不足や短い期間のために起こる妥協により、多くの曖昧さと不確実性が生じている。これにより非常に幅広い解釈の余地が残され、紛争の幅を増大している」

 

税務部門の拡大急ぐ

 

 EYは2014年、25の国と地域にある20業種を対象にBEPSプロジェクトに関するアンケート調査を行い、830人の税務や財務担当役員から回答を得た。

 

 多くの企業は業務・運用面のリスクを挙げ、財務報告やタックスプランニングに費やす時間を削減している反面、コンプライアンスや税務紛争により注力していると答えた。

 

 その上で、半数以上の回答者が2011年以降、税務部門を拡大したと回答。このうち55%は、その背景として租税環境の変化を挙げた。

 

 企業が税に関する風評被害を懸念していることも、調査から分かった。89%の回答者が企業納税や低い実効税率に関するネガティブなメディアの報道に対する懸念を示した。

 

金融界もBEPSに注文
 

 財界人が指摘するリスクは「二重課税」や「不確実性」だけでなく、事務負担や税負担の増大を心配する声も少なくない。全国銀行協会と日本損害保険協会は、8月下旬にBEPS行動計画に関する要望を発表した。

 

 全銀協は、「海外展開している本邦金融機関において、各種税制の見直しによる税額算定の複雑化および税負担の増大や資金調達への影響が発生する懸念がある。したがって、国内法制化に当たっては、金融機関の業務への影響を十分に考慮するとともに、体制整備等を行うための十分な準備期間を確保することを要望する」と表明。

 

 一方、日本損害保険協会は、「今後、政府により国内法の整備が検討されるものと思われますが、その際、本邦企業が行う公正な取引にまで制度の趣旨を超えた課税や事務負担をもたらす制度設計がなされ、国際競争力が失われないよう、十分な留意がなされるべきと考えます」との見解を示した。

 

投資意欲にも影響か

 

 国外では、BEPSが実施されることにより民間部門の投資意欲が削がれる、といった懸念も聞かれる。英国不動産連盟のメラニー・リーチCEOは、税控除に対する新たな規制が導入されれば、建設部門の投資が大きく下落すると予想する。

 

 「政府はこの点に注意し、OECDの勧告を採用する前に財界の意見に耳を傾けなければならない」と警告している。

 

 世界的に広がりを見せる税金逃れの動きを阻止するために始まったBEPSプロジェクト。各国政府は企業の懸念に真剣に耳を傾け、官民協力を一層強化してプロジェクトを進める時期に来ているのかもしれない。


※写真の出所:360b / Shutterstock.com


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