2016.11.01

デジタルジレンマ 技術革新と税の相克

 デジタル経済の台頭が世界の租税当局に難題を突き付けている。公共サービスの充実や膨らみ続ける国家予算を賄うため、潤沢で安定的な税収源を求めるのはどこの国でも同じこと。しかし、デジタルエコノミーの発展は既存の徴税モデルに破壊的な変化をもたらし、企業に節税の機会を飛躍的に増やしているという側面もある。

 

 コロンビア大学情報通信研究所のビジネス戦略研究ディレクター兼コンサルティング会社テレコム・アドバイザリー・サービス社長のラウル・カッツ氏は、デジタル経済の破壊的インパクトは今後、ますます増大すると予想する。

 

 例えば、ネット取引。カッツ氏によると、先進国では小売取引のおよそ12%がネットで行われていると試算する。デジタルプラットホームの流動性や無形性といった特徴を逆手に取り、税逃れしているネット企業が少なからずあり、徴税当局や国際機関はこれまで以上に神経を尖らせている。

 

 モノの取引だけではない。タクシーの予約や翻訳業務など、サービス分野においてもこれまでに確立された徴税方法が過去のものになりつつある。

 

 「デジタル取引から得られる税金を確実に捕捉するよう、当局者は努めなければならない」とカッツ氏は指摘する。その反面、企業のデジタル技術の導入を阻害するような動きに出れば、「デジタル化が経済成長に与えるポジティブな影響を減少させる」とも述べている。

 

徴税ギャップを埋める

 

 租税当局もデジタル経済の出現によるネット業者と店舗販売の業者との間で広がる「徴税ギャップ」を静観しているわけではない。徴税ギャップを埋めるための取組みは、徴税の在り方そのものを変える可能性を秘めている、と専門家は予想する。

 

 これまでの徴税方法というのは、モノやサービスが提供された地点で税が徴収され、法人税や所得税はその収入を得られた場所で課税される。課税対象というのは、1. 何に対して課税し、2. その対象がどこにあり、3. それがいくらなのか、という3つの問題に答えることによって特定できた。

 

 しかし、デジタルビジネスが新たな経済価値や新たな流通メカニズム、新たなビジネスモデルを生み出していることにより、租税当局も企業もこれら3つの質問に対して明確な答えを出せないケースが現れている。

 

 例えば、ブラジルの消費者が海外のネットサイトAから商品を購入し、海外から商品が送られたとしよう。このような国をまたいだオンライン取引からは、いくつもの論点が浮かび上がる――1. 消費税を請求し、徴収するのはAなのか、あるいはそもそも消費税は徴収されないのか、2. ブラジルの租税当局はどうやって課税される消費税をチェックするのか、3. 仮にAはブラジルにビジネスの物理的拠点がないにしてもブラジルの税金を払う義務があるのか、といった具合だ。

 

既存ビジネスから不満の声

 

 デジタル経済の広がりで悩まされているのは、租税当局だけではない。店舗展開する既存のビジネスは、デジタルビジネスとの徴税ギャップにより、不利な競争に晒されているとの嘆きの声も聞こえる。

 

 ネット企業は低廉な税金を求めて自社に有利な租税国を選ぶ、という「租税国ショッピング」をすることが可能だが、店舗を構える小売業にはこれをする余地がない。英国の書店業協会によると、国内の大通りに面した小規模書店の数がネット販売に押され、1995年の1,894店舗から907店舗に減少したというデータもある。協会は、小規模書店に課される固定資産税は時代にそぐわないと主張する。

 

 このような現象は、音楽や映画といったソフト産業でも起きている。業界団体によると、デジタルフォーマットの音楽の世界総売上げは2015年に初めて非デジタルの売上げを超え、45%まで占めるようになった。

 

シェアエコノミー、ギグエコノミー

 

 米国の民泊大手のAirbnbや自家用車配車サービスのウーバーテクノロジーズ、日本ではカーシェアリングで注目が集まるシェアエコノミーは、デジタルビジネスの課税の難しさを浮き彫りにしている。

 

 世界の多くの自治体は、これまでホテルの利用者に課税してきたが、パリ市のように家の一部を短期滞在者に貸し出すような民泊おいて施設提供者に課税する自治体も出てきた。しかし、このような場合、税額の特定や税の徴収に困難が伴う。

 

 また、非正規雇用が日本以上に定着している欧米では、「ギグ(gig=単発の仕事)エコノミー」の広がりにより多くの人がインターネットでフリーランスの仕事を得ており、この場合、納税者としての立場が曖昧になり、時には訴訟にまで発展するケースもある。

 

AIに期待

 

 デジタル経済と税の問題の根底にあるのは、課税権の複雑で重層的な構造だ。米国の大手小売企業であれば、連邦と州の法人税を払い、州レベルでは売上税も払い、地方自治体レベルでは固定資産税も払う。結果として、何千、何万の租税当局に税金の支払義務が生じる。

 

 「いま私たちは、大変革期にいます」と述べるのは、EYアメリカ・タックスイノベーションリーダーのジェフ・サヴィアーノ氏。「企業の税負担や税のコンプライアンスをいかに管理するか、といった根本的な在り方までもが変わって来ています」とし、税務当局との紛争処理といった難しい問題にも新たな態勢が企業に求められていると指摘する。

 

 デジタル経済が突き付ける難問の解決で期待されているのがAI(人工知能)だ。起業の現場では、当局や企業が複雑化する一方の税務処理に役立つツールを開発するベンチャー企業が増えている。これらのツールにより税務当局者や納税者は、過去の情報にアクセスし、膨大なデータベースにアクセスすることにより税に関わるあらゆる問題を解決することができるようになる、とサヴィアノ氏は楽観的な未来を描く。


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