2016.11.15

税理士の仕事がなくなる?未来の知的労働の姿

 科学技術がどんどん進歩し、ロボットやコンピューターがますます高度になり、次第には人間の仕事を奪い取っていき、やがて生身の人間は職を失っていく――。何かSF映画で描かれるような世界だが、知的労働の人間から機械への加速度的シフトは現実のものである。

 

 税務の世界でも、何世紀も昔から税理士が企業から数字を集めて申告書を作成し、当局に提出するという、いわば「手作業」の仕事だった。

 

 しかし、テクノロジーは「仕事」の概念を根本から覆そうとしている。使用者と労働者がどう関わり合うか、時間と能力をどう配分するか、どこでいつ仕事をするか、といった仕事のあらゆる要素に変革をもたらしている。

 

テクノロジーの出番

 

 『職業の未来(The Future of the Professions)』の著者のリチャード・サスキンド氏は、テクノロジーは税理士にとって脅威になるが、同時に仕事の能率を上げるという点で強力な武器になると言う。米国税法は高度な職業教育を受けた税務プロフェッショナルにとっても年々難解になっており、まさにテクノロジーの出番だと指摘する。

 

 「米国でも、それ以外の国でも税法は複雑な網のように構成されていて、分かりにくくなっています。コンピューターは人間が作り出した問題をあぶり出し、理解可能にするのに適しています」

 

 納税者からすると、技術革新がもたらした利益は計り知れない。個人の多くは、これまで税理士に依頼してきた税務申告を、インターネットのソフトウェアを使って書類作成することが可能になった。

 

 「税務ソフトは、個人向け税務サービスの在り方を変えています。納税者のいわゆる『コミュニティー』が形成されているので、税に関する問題があればネットで助けてくれる人を探すことができます」

 

アプリからボットへ

 

 「ボット(bots)」と呼ばれる超高速でタスクを処理するインターネットのアプリケーションソフトウェアも税務の世界に急速に広がっている。サンフランシスコに本社を置くボット関連企業Gupshupの創業者でCEOのベールド・シェス氏は、ホワイトカラー労働者の経費処理を例に挙げた。

 

 企業の従業員は、スマートフォンのアプリを使って空港やコーヒーショップの列に並びながら簡単に経費の処理ができる。以前なら本来業務の一部と考えられていた経費事務も、今後そうではなくなる。

 

 「従業員の支払いごとに経費の情報が自動的にアップロードされるのを想像してみてください。お金が何に、どこで、いつ使われたのかが明確に、そしてリアルタイムで分かるようになるのです」

 

変わる税理士の姿

 

 税理士を含むタックスプロフェッショナルの働き方を大きく変えると予想されるのが、AI(人工知能)だ。税務の複雑なタスクの大部分は、やがてコンピューターによって処理されると専門家は見る。

 

 「これからAIやロボティクスがますます企業に浸透していきます」と語るのはEYアメリカ・タレントサプライチェーンリーダーのトニー・ステッドマン氏。「私たちがどう働くか、私たちのクライアントがどう働くか、私たちが彼らにどういうサービスを提供するかが変わっていくのです」

 

 技術革新によりテクノロジーがどれだけ高度な税務を処理できるようになったとしても、多国籍企業や多角的ビジネスを展開する会社のクライアントの難しい要求に対応できるのは、最終的に人間のみだと考える人も少なくない。ところが、前出のサスキンド氏は必ずしもそう考えない。

 

 「タックスプランナーの多くは、自分たちの仕事が複雑すぎて機械にできるはずがないと考えています。しかし、どこを見渡しても、どれだけ問題が困難でも、人間の能力が必要だと思われていた仕事をこなせるソフトを作る人がいるのです。税務も例外ではありません。誰しもがその影響から逃れられないのです」とサスキンド氏は言う。

 

IAの可能性

 

 だとすると、人工知能やAIはやはり人間にとって脅威になるのか。必ずしもそうとは限らない。いま注目を集めているのが、情報技術や遺伝子工学を使って人間の知能を増強するというIA(intelligence amplification、知能増幅)。共通の言語と技能を使ってヒトとコンピューターが相互にコミュニケーションし、仕事を円滑に進めるというやり方だ。IAはまだ開発初期の段階だが、その可能性は無限大にある。

 

 IAを使うと、人間はより多くのデータをより短時間に処理することができるようになる。例えば、コールセンターのスタッフが顧客のアカウントから迅速にクレームを処理するといった場面だ。

 

 また、IAは税務分野でも力を発揮することが期待される。IAにより増強された知能がグリッドにつながることでクライアントの個別の相談に的確かつ、より速くソリューションを提供することになる。

 

人間と機械の協調

 

 サンフランシスコにある破壊的革新の研究を行うシンクタンクでリサーチフェローを務めるダニエル・アラヤ氏は、まずIAを活用していくのはフリーで仕事をする若いプロフェッショナルではないかと見る。確かに、未来の仕事というのは、働く人間が世界に散らばり、個人は企業や団体から単発で仕事を請け負うことによって給料が支払われるという姿にますます変貌していくことが予想される。

 

 「従業員が決まった場所に座り、同じ仕事をやるという時代は終わりを迎えつつあります。その代わりに、企業はクラウドソーシングや業務マネージメントツールでコミュニケーションし、従業員のバーチャルネットワークに仕事を依頼することになります」とステッドマン氏は指摘する。

 

 IAは将来、機械が人間に完全に取って代わることのない明るい未来への道筋をつけてくれる。

 

 「人間の能力を増強することが、既存の労働力を充実させ、人間がコンピューターより優れた仕事をできるようにするのに最も適しているのです」とアラヤ氏は語った。


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