2016.12.07

驚愕のトランプ氏勝利、米税制はどう変わるか

 世界を驚愕させた共和党ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利。その後の株式市場の活況や円安にひとまず胸をなでおろす日本の財界人も少なくないが、トランプ氏の世界経済への影響を現時点で見極めるのは困難である。そんな中、注目が高まっているのが新大統領の税制政策だ。

 

 「増税か、減税か 米大統領選で占う税制改革の行方」(2016年10月14日)の記事では、選挙の勝敗のキーポイントとして、1.誰が大統領に選ばれるか、2. どの党が議会下院の過半数を取るか、3. どの党が議会上院の過半数を取るか、4.大統領拒否権を覆すことのできる両院の3分の2のスーパーマジョリティをいずれかの党が獲得できるか、の4点を掲げた。

 

 スーパーマジョリティこそ実現しなかったが、大統領と議会上下両院を共和党が制したことにより、大統領=民主党、上下両院=共和党という「ねじれ現象」は解消された。

 

 大統領と上下両院を同じ政党が押さえない限り、大幅な税制改正は難しいと見られていたため、ねじれ解消の意味は大きい。だからといって、共和党が税制政策のフリーハンドを手に入れたわけでもない。

 

 もちろん上下両院の過半数を制した共和党は議会でアジェンダを設定する主導権を握ることになるが、重要な法案を上院で通すためには過半数(定数100)ではなく、60人の賛成が必要。今回の選挙で、上院における共和党の議席数は51になり、60人には届かないので、民主党の協力なしに税制改革を推し進めることはできない。

 

ブループリントか、トランプ案か

 

 共和党による税制改革の下地はここ3、4年の議会での継続的な審議により、ある程度整いつつある。共和党の大統領が誕生することにより今後の焦点は、改革のベースが共和党の「ブループリント」(House Republican Tax Reform Blueprint)と呼ばれる税制改革案になるのか、トランプ氏が掲げる改革案になるのかにシフトする。

 

 この2つの大きな違いは、ブループリントが財政中立型であるのに対し、トランプ案は大幅な財政赤字をもたらすと予想されている。

 

 税制改正の目玉の一つである法人税率も、ブループリントは20%を提唱しているのに対し、トランプ氏は15%を主張している。米国の法人税は世界で最も高いと言われ、例えばニューヨーク州・市税を含む法人税の法定実効税率は40%を超える(2016年)。いずれの場合でも法人減税が実現すれば、税率の高さを理由に米国から拠点を移してきた企業を呼び戻すことができ、経済へのインパクトは相当なものになるだろう。

 

税制改革、加速か

 

 共和党の主要議員も税制改革の重要性を唱えており、動きが加速することが予想される。ミッチ・マコーネル上院多数党院内総務は、「断片的ではなく、包括的な税制改革を断行しなければならない」と語っている。

 

 同じく共和党のポール・ライアン下院議長も、折に触れて税制改革が最優先課題であると強調しており、「できるだけ速やかに税制改革を進めたい」とトランプ氏が勝利する前の10月に語った。

 

 もちろん、共和党は民主党の意向も無視できない。特に対立が際立つ個人所得税に関してはブループリントもトランプ案も12%、25%、33%の3段階になっており、低税率基調を明確に打ち出している一方、民主党のヒラリー・クリントン氏は選挙期間中、高所得者に重い税金を課す方針を打ち出していた。

 

 しかし、仮に民主党が反対姿勢を打ち出したとしても、議会の勢力図によって阻まれる可能性があり、やはり共和党の減税政策が実現する可能性は決して低くない。ライアン議員は、税制改革の関連法案を包括的な税制改正法案ではなく、60人の賛成を必要としない「予算調整法案」という形で提出する意向を明らかにしており、上院の共和党議員が60人に満たしていなくても成立することは可能だ。

 

TPPは絶望的

 

 米国が主導的な役割を果たしてきた自由貿易の枠組みも、トランプ氏の大統領就任により変化は不可避である。関税制度の大幅な見直しで国内企業も備えなければならないかもしれない。

 

 ポイントは、トランプ氏が選挙期間中、保護貿易主義的な発言を繰り返してきたことから、米国における海外産品の輸入に影響が出る可能性がある。

 

 TPP(環太平洋経済連携協定)は米国の議会承認がなければ発効されないが、トランプ氏は就任初日にTPP交渉から脱退することを明言していることから、TPPの発効は絶望的と思われる。

 

 一方で、トランプ氏は二国間協定に積極的な姿勢を示しているので、日米FTAといった違った形での自由貿易協定が結ばれることは考えられる。しかし、世界の国内総生産(GDP)の約4割をカバーするTPPほどのスケールはないため、日本を含めた交渉参加国への影響は避けられない。

 

アンチダンピングのリスク

 

 トランプ大統領誕生の影響はTPPだけに留まらない。米国、カナダ、メキシコが加盟する北米自由貿易協定(NAFTA)についてもトランプ氏は「全くの災害」と批判し、見直しの可能性を示唆している。しかし、発効から20年以上機能してきた協定を反故にするのは容易ではなく、どこまで手を付けられるかは不透明だと指摘する専門家もいる。

 

 また、トランプ氏は中国産品の輸入に多額の関税をかけると言っているが、世界貿易機関(WTO)で定められた関税率の上限である譲許関税率(bound tariff rate)があるため、税率を大幅に引き上げることは難しいと思われる。

 

 ただし、中国産品に対して制裁措置としてアンチダンピング税や相殺関税を課すことが考えられる。新政権がこれらを発動するリスクが残るため、注意が必要である。

 

※写真の出所:
ドナルド・トランプ氏 Joseph Sohm / Shutterstock.com


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