2017.12.13

OECDが税務リスク指針発表 企業税務は新時代へ

 個人や企業による税逃れに歯止めをかけるため、経済協力開発機構(OECD)が主体となって導入が進められている税源侵食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting: BEPS)プロジェクト。その一環として国別(Country-by-Country: CbC)報告書の国家間における交換が、2018年に本格スタートする。各国の租税当局は、これまで以上に企業の税務情報を把握することになり、グローバル企業にとって税務コンプライアンスは新時代に突入した。

 

 CbC報告書の本格導入に先立ち、OECDは税務係争の回避とさらなる透明性の確保を目的とした税務リスクに関する指針を発表した。

 

 OECDが9月29日に発表した「国別報告書:効果的な実施に関するハンドブック」(以下、「実施ハンドブック」)は、各国の税務当局がCbC報告書を既存の税務リスク評価のフレームワークに組み入れる際、考慮すべき点を明らかにしている。

 

 国別報告書データの最初の交換は、2018年6月30日に開始する。これにより当局は、多国籍企業の税務管轄地ごとの利益や税負担といった情報の入手が可能となり、情報の量も質も飛躍的に向上する。

 

 OECDによると、現在のところ55の国・地域で多国籍企業にCbC報告書の提出義務を課している。さらに、1,000を超える税務管轄地間の情報交換協定が結ばれている。

 

今後の税務リスク

 

 CbC報告書導入を前に、企業関係者の多くは、このようなハイレベルのデータは正しい全体像の理解なしでは誤解されてしまうおそれがある、と懸念を表明している。

 

 したがって、CbC報告書から得られる情報をいかに効果的かつ正当に扱うかは、税務当局の力量次第である、とOECDは指摘する。いずれにせよ、CbC報告書は今後、それ以外から得られるデータと照合させることで、移転価格等のリスクを特定するのに重要な役割を果たすことになるであろう。

 

 同時に、OECDは「CbC報告書が単独で使用された場合、単純で誤解を招きかねない結論が導かれるリスク」がある、と実施ハンドブックに注意喚起している。

 

地球規模な俯瞰

 

 CbC報告書から得られる詳細な情報は、各地域における現地法人が多国籍企業の全体構造にどのように組み込まれているのか、といった理解を促進することになる。また、OECDによると、税務職員はこれまで以上に精緻なリスク評価を行い、ハイリスク納税者を特定することができる。

 

 OECDは、よりリスクの低い納税者の特定にもCbC報告書を活用し、これらに関しては税務コンプライアンスのやり方を変えることも提言している。

 

パターンの特定

 

 多くの場合、税務当局は税務リスクを特定する際、CbC報告書に含まれるデータのみならず、2つ以上の別の情報源から得られるデータと比較しなければならない、とOECDは指摘する。例えば、移転価格のマスターファイル、ローカルファイルや、当局が持ち得る多国籍企業に関する知識や経験がこれに当たる。ハイリスクとローリスク納税者の活動パターンを読み解く際にも該当する。

 

 実施ハンドブックによると、これらのパターンは以下のやり方によって特定できる。

 

  • ある特定の税務管轄地における多国籍企業グループの情報を、別の管轄地のもの(グループの一部又は全体)と比較する。
  • ある特定の税務管轄地における多国籍企業グループの情報を、同じセクターの「典型的な」多国籍企業グループと比較する。(この場合、そのセクターにおける全多国籍企業を比較対象のベースとする)
  • ある特定の税務管轄地における多国籍企業グループの情報を、同じ管轄地の過去のCbC報告書情報と比較する。これにより当局は、時間経過による企業活動の質や量の変化を見ることができる。

 

リスクプロフィール

 

 今回の実施ハンドブックで特に興味深いのは、CbC報告書から抽出できる19の具体的なリスク指標が示されている点にある。これらの指標は、他から得られる情報と合わせることにより、多国籍企業の全体的な税務リスクを評価することができる。

 

 実施ハンドブックは、各リスク指標の全体的な概要とともに、各リスクから派生する結果がどのような意味を持つかといったことや、必要かつ補足的な説明もなされている。

 

 また、実施ハンドブックは、税務当局がCbC報告書から得られる情報をリスク評価の補強にどう使うかを明示した初めての指針でもある。今後、各国の税務当局が最低限でもハンドブックに示されたリスク指標テストの評価を行い、さらには当局独自のリスク評価で補うことを企業は認識する必要がある。

 

 納税者からすると、当局に提出した税務や財務データがどのように使われるかは、ほとんど透明性が確保されておらずその意味において、実施ハンドブックはリスク評価の全体像を提供するまではいかない。しかしながら、企業が自社で行うコンプライアンスリスクの評価アプローチが、当局の(ひいてはOECDが期待する)ものと整合性が取れているかを事前にチェックする際、実施ハンドブックは一定の方向性を示しているといえよう。

 

実施ハンドブックに示された「19のリスク指標」は以下のとおり。

 

  • 特定の税務管轄地におけるグループの展開
  • ある税務管轄地におけるグループの活動がリスクの低い活動に限定されていること
  • 特定の税務管轄地における関連者間収益の価額が大きい又は比率が高いこと
  • ある税務管轄地における結果が潜在的な比較対象から乖離していること
  • ある税務管轄地における結果が市場の動向を反映していないこと
  • 利益は多いが、実質的な活動がほとんどない税務管轄地があること
  • 利益は多いが、発生した税額の水準が低い税務管轄地があること
  • 活動は多いが、利益(又は損失)の水準が低い税務管轄地があること
  • グループが、BEPSリスクをもたらす税務管轄地で活動を行っていること
  • グループが、自身の支払っている税率又は税額水準の低い税務管轄地に立地する可動的な活動を有していること
  • グループの構造(資産の場所を含む)に変更があったこと
  • 知的財産(IP)がグループ内の関連する活動から分離されていること
  • グループが、自身の主要な市場以外の税務管理地に立地するマーケティング事業体を有していること
  • グループが、自身の主要な製造場以外の税務管轄地に立地する調達事業体を有していること
  • 支払った法人所得税が、発生した法人所得税を一貫して下回っていること
  • グループに双方居住者事業体が含まれていること
  • グループに税務上の居住地のない事業体が含まれていること
  • グループが表1において無国籍収益を開示していること
  • グループのCbC報告書に含まれる情報が、その構成事業体過去に提供された情報と対応していないこと

 

※写真の出典:RFarrarons / Shutterstock.com 


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