2018.03.01

英国のEU離脱に企業はどう備えるべきか

 ブレグジット(Brexit)まで残された時間は1年余り。いま、各国の企業は英国が欧州連合(EU)から正式に離脱する2019年3月を前に、準備を加速している。

 

 特に影響を受けるのは英国との間で貿易を展開する欧州企業である。英国とEUの間に「ハードボーダー」(固い国境)ができれば、これまでのような単一市場の恩恵を受けられなくなるからだ。

 

 「10年も経てば英国は貿易摩擦なき国境を持つと確信しているが、2年以内に実現することはないだろう」と指摘するのは、EYで英国・アイルランドを担当するグローバルトレードリーダーのマーク・バンチ氏。

 

 多くの欧州企業がBrexitを前に身構えるのは、貿易相手国としての英国の重要性にある。民間の調査によると、EU全28カ国のうちドイツ、イタリア、スペインを含む10カ国は、英国が輸出先ランキングでトップ3に入る。

 

 Brexitにより既存のビジネスモデルでは対応できない状況が生じ、国境における通関待ちの長い列や事務処理負担、関税の増加も予想される。

 

 例えば、製薬会社は関税以外の障壁に悩まされることになる。EU離脱による新たなコンプライアンス義務の発生や国境における物流の滞りにより、英国での販売価格が高くなり、結果として売上げが減少する可能性もある。

 

 英国に研究拠点を置く欧州企業は、英国とEUの知的財産保護に関する取決めの変更により影響を受けることも想定される。

 

 現在、英国における通関件数は年間5,500万件だが、これが2億5,500万件まで急増すると予想されている。英国政府は通関インフラの増強を急ピッチで進めており、新たなシステムを開発しているが、それでも対応できる件数は予想に遠く及ばない6,000万件程度となる見込みだ。

 

変化に備える

 

 EUがこれまで経験したことのない加盟国離脱のプロセスには、多くの不透明感が伴うが、英国とEUの企業が今後も活発にビジネスを続けることに変わりはない。そこで、Brexitにどのように備え、どのような行動を取るかが問われている。

 

 EYのインダイレクトタックスチームでエグゼクティブディレクターを務めるジェローン・ビジュル氏が1 つの選択として提案するのは、英国内の倉庫を増強し、英国への出荷量を減らすことだ。

 

 しかし、ネット通販の活況もあって英国全体の倉庫供給量は低下しており、2017年半ば時点での空室率は5.3%と歴史的低水準になっていることから、倉庫増強は必ずしもベストオプションとは言えない。

 

 もう1つの選択肢は、AEO(Authorized Economic Operator)制度を活用し、認定事業者になることだ。通関手続きの簡素化が認められるAEO認定事業者になれば、通関手続きの時間を削減することができるため、メリットは大きい。Brexitが実施される2019年3月から数カ月間、AEO認定事業者の通関手続きをかなり簡素化することを英国もEUもすでに表明している。

 

 AEOのメリットに対する認識は企業の間でも広がっており、近年AEO申請の件数は急増している。



 貿易障壁を取り除くには、サプライチェーン以外の要素を検討しなければならない。今後重要になってくるのは、英国と欧州の業者がビジネスを行う際、どちら側が通関手続きを担うかを明確にすることである。必要に応じて契約を見直さなければならず、前出のバンチ氏も「私のクライアントで2万件の契約を持っているところもある」と述べ、作業が膨大になる可能性がある。

 

 それだけではない。製薬業界のような規制産業では、文書類がBrexit後も基準に適合していなければならない。新たな免許取得も含まれよう。

 

 「免許の新規取得は15カ月を要する、官僚的なプロセスだ」とバンチ氏は警告する。

 

 通関手続、文書業務、免許取得といった課題と並行して、企業が検討しなければならないのはキャッシュフローだ。2019年3月以降、EUと英国との間で物の移動を行う企業は付加価値税(VAT)の納税や還付請求をする必要があり、これは月単位や四半期単位で行われることになり、煩雑な手続きを覚悟しなければならない。

 

 「これらは、Brexitの結果がわからない現時点においても、実行・検討することが可能だ。欧州企業は今のところBrexitの結果が確定するまで何もしないスタンスを取っているが、備えることが非常に重要になってくる」とビジュル氏は指摘する。

 

アクションポイント

 

 Brexitまでに企業に残された時間は決して長くはない。そこで企業が検討すべきアクションポイントは以下の3点。

 

  • Brexitに備えるということは、何を速やかに変えなければならないかを理解すること。それは、新たな文書業務に対応するためにITシステムを更新したり、英国-EU間で取引される商品の免許を取得したりすることが含まれる。
  • サプライチェーンを再検討し、より効率的に市場に供給するための新たな流通ルートを開拓し、Brexit後はコスト・スピード両面で劣るルートを廃止する。
  • ポストBrexit時代のキャッシュフローについては、VATといった間接税も検討課題となる。

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