2016.05.17

トップが語る税務人材の“いま” 米・ウォルマート

 企業税務は複雑化の一途をたどっている。コスト削減の要求、各国政府の租税回避政策への対応、テクノロジーの台頭などにより税務部門の重要度は増すばかりだ。しかし、国内外の多国籍企業の多くは優秀な税務人材の確保に苦労している。英語版Tax insights編集部は、米小売業最大手のウォルマート・ストアーズで最高税務責任者を務めるリサ・ワドリン氏にインタビューし、企業トップの立場から税務人材の“いま”を語ってもらった。

 

編集部:世界を代表する小売業大手の税務リーダーの立場から、いま企業の税務部門が抱える人材獲得や人材維持の課題は何だとお考えですか。

 

リサ・ワドリン:マクロの課題は大きく2つあります。ひとつは、税務人材が豊富に存在するか、という問題。これに関しては、純粋にボリュームが足りないと思います。税務が魅力的なキャリアであることを人々に認識してもらわなければなりません。

 

ふたつ目のマクロ的課題は、社員のスキルを確実に企業や団体のニーズにマッチさせる、という点です。国際税務や移転価格などハイリスクでハイニーズの分野では、いい人材を見つけるのは非常に困難です。これらの人材獲得を主導してヘッドカウントを確保し、かつ、チームに溶け込み価値を生み出すのに相応しい人を探すのは、私たちの会社のみならず、すべての税務組織における大きなチャレンジだと考えます。

 

編集部:それらの課題に対応するため、これまでと違った戦略や方法を取っていますか。

 

ワドリン:比較的職歴の浅い社員に対しては、組織の重要部門との未来のパイプラインを構築させるため、幅広い経験を積ませる試みを始めました。広いベースを築くことは、より良いプロフェッショナルを育てることに常につながると考えています。

 

また、採用の網を少し広げるようになったこともあり、外部の組織に対しても一層目を向けるようになりました。業界団体であれ、非公式な税のネットワーキングであれ、いい人を探そうとしています。他のみなさんがやっているように。競争は非常に激化しています。我々の税務組織の一部では、確固たる税務の経験がない人を採用することもあります。適材と思った人には投資をし、育成するのです。

 

編集部:高まる労働人口の流動性や非正規労働者の増加は、人材の確保をより容易にしていますか、それとも難しくしていますか。

 

ワドリン:ウォルマート・ストアーズでは、柔軟な勤務形態を提供しています。遠隔で働いている人もいれば、フレキシブルなシフトで働いている人もいます。中には、国外で住んでいながらも、アメリカの上司に報告するような従業員もいます。このような条件を提供することにより、いままで税務をキャリアとして選択しなかったような人材を引き付けるための環境を作ることができます。

 

これにはプラスとマイナスの側面があります。なぜなら、フレキシブルな労働条件を与えることは、人材プールを広げることにつながりますが、同時に社員やそのチームに負担をかけることになるからです。コミュニケーションをオープンにして、相手の期待を正しく理解しなければなりません。これは、適切なガイドラインを策定し、テクノロジーや人の移動を多用することにより可能になりました。

 

編集部:ミレニアル世代(1980年代から2000年代前半に生まれた世代)が今日、重要な人材の供給源となっています。税務リーダーたちはこの世代をどのようにマネージメントし、将来のリーダーになるために育てるべきですか。

 

ワドリン:私もミレニアル世代は、過去の世代と違うと考えています。でも、それは決して悪いことではありません。ミレニアル世代は、昇進、より高い報酬や多様な就業経験のように、他の世代が求めるようなインセンティブでは意欲が掻き立てられません。したがって、彼らのやる気をどう高めるかは難しいと思います。ミレニアル世代にとって大事なのは、仕事に意味を見出すことです。彼らは学ぶことに貪欲です。大きなプロジェクトや組織全体の中での役割をリーダーが理解させることによって、彼らのモチベーションを維持できると考えています。

 

ミレニアル世代のモチベーションでもうひとつ大事なのが、ワークライフバランスです。彼らは考え方が違いますから、リーダーが時間をかけてギャップを埋めるのは重要です。彼らはやがて他のミレニアル世代の人たちを指導するリーダーとなっていくのです。これからは紋切型のやり方でリーダーを養成しても、うまくいなかくなります。彼らの意欲を高める方法については、もっと柔軟にならければなりません。

 

編集部:ご自身の視点から、いま税務リーダーが取り組むべき深刻な人材ギャップはあると思いますか。

 

ワドリン:ここにきて重要度が増しているにもかかわらず、人材が不足しているのはテクノロジーの分野です。具体的に言うと、税の知識があり、テクノロジーが分かる人材です。いま、誰もが物事をより良く、より早く、よりスピーディーに進めようとしている中、テクノロジーは不可欠になっています。

 

さらに言うと、国際税務です。経済がグローバル化していますが、国際税務のプランニングからコンプライアンスまですべての分野に精通する人材が存在することは重要です。どの企業にとっても当面の間、これら2つのスキルセットの高い需要は続くと思います。

 

編集部:税務リーダーに求められるスキルというのは、どのように進化しているのでしょうか。

 

ワドリン:伝統的に、税務はビジネスに直結していませんでした。税務部門が比較的孤立していた、という会社もありました。しかし、節税やコンプライアンスという視点から税務の価値が以前より理解されるようになり、ビジネスとの関係性も高まりました。優秀なタックスリーダーになるには、事業自体に大きな関心と理解がないといけません。

 

リーダーシップの視点から言うと、「ソフトスキル」が大事になっています。グローバルなマインドを持つことも絶対的に重要です。組織であらゆる決定を下すことになりますが、税務リーダーは、その決定が全世界のどこかで複製される可能性があるということを認識しなければなりません。

 

編集部:税務のリーダーシップにおけるタイバーシティー、具体的には女性の現状をどう評価しますか。

 

ワドリン:金融の世界では、こういう見方があります。税務は他の分野と比べて居場所を見つけやすい、と。それが事実として正しいかどうかは、よく分かりません。私もこれまで多くの強くて素晴らしいメンターやリーダーと出会ってきました。税務は、スケジューリングやワークライフバランスにおいて高い柔軟性があります。そこには、専門的スキルとリーダーシップのスキルのいい調和があると思います。税務がビジネスにどんどん取り込まれているという現状も、税というのは非常に広がりがあるものになっているのです。専門的な分野ですが、広がりとともに、リーダーシップの機会も与えてくれます。もし女性が税以外に興味をもったとしても、税務の知識は、社内のどんな分野においても基礎力となると思うのです。


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