2018.01.11

平成30年度税制改正大綱を読み解く

 昨年10月の衆院選で自民党が勝利を収めてから、初めての税制改正の中身が明らかになった。昨年12月14日に与党(自民党・公明党)が公表した「平成30年度税制改正大綱」(以下、「大綱」)は、安倍内閣の優先課題である経済再生とデフレ脱却を税制面から支えるための項目が盛り込まれているのが特徴だ。

 

 安倍首相が打ち出した「生産性革命」と「人づくり革命」を後押しするため、賃上げや設備投資を積極的に進める企業の税負担を軽減する施策が盛り込まれた。

 

 また、経済協力開発機構(OECD)が中心となって進められている租税回避対策の国際的枠組みであるBEPS(Base Erosion and Profit Shifting: 税源浸食と利益移転)プロジェクトに対応するため、国内税制をグローバルスタンダードに合わせるための項目も加えられた。

 

 一方、「働き方改革」を推進するため、会社員の給与所得控除を減らす反面、フリーランスで働く者にとって有利になる基礎控除の拡充といった個人所得税の見直しも行われる。たばこ税の増税、出国税や森林環境税の創設など、個人の税負担が重くなる項目も見られる。

 

 大綱で注目される項目を、以下にまとめた。なお、大綱の内容は今後の国会審議の過程で修正・削除・追加される可能性がある点に留意されたい。

 

1. 法人課税

 

 平成30年度の税制改正では、賃上げや投資に積極的な企業を税制面で優遇する措置が盛り込まれ、安倍内閣の「企業優先」のスタンスが全面に出ている。

 

 賃上げを実施した大企業は、賃上げに加えて設備投資や社員の教育費を増やした場合、最大で法人税額の20%を軽減することができる。現行制度の最大12%に比べて手厚い減税措置であることがわかる。

 

 一方、中小企業については、減税の適用条件を緩和している。例えば、大企業では3%以上の賃上げが求められるところ、中小企業の場合、1.5%以上の賃上げで税額控除の恩恵が受けられる。

 

 この改正案で特徴的なのは、給与の増加だけでなく、設備投資や教育訓練もバランスよく増加させるインセンティブを働かせるため、適用要件を大幅に見直した点だ。

 

 賃上げと設備投資に積極的な大企業には控除税額の拡大という「アメ」を与える一方、所得が増加しているにもかかわらず、賃上げや設備投資に消極的な大企業には研究開発税制等の適用を受けられないという「ムチ」を与えるという、「アメとムチ」の改正となる。
 

 また、要件判定にあたっては、賃上げ、設備投資、教育訓練の3つの観点で行うことから、経理実務担当者の事務負担が増えることが予想される。

 

2. 国際課税

 

 BEPSプロジェクトの行動計画で提言された国別報告書の本格運用が今年スタートする。国別報告書は、BEPS参加国間で共有されるグローバル企業の税務・財務情報が記された文書である。

 

 BEPSプロジェクトで求められるグローバルスタンダードに合わせるため、国内法が改正される。非居住者や外国法人の課税根拠の基準となる「恒久的施設:Permanent Establishment=PE」の定義について、国際的スタンダードに合わせる見直しだ。

 

 例えば、これまでは商品の保管や展示、引渡しなどの特定活動のみを行う場所(倉庫等)はPEから除外されていたが、今後は、特定活動のみ行う場所であっても、その活動が、非居住者の事業の遂行にあたり、準備的・補助的な性格のものでない場合にはPEに該当するようになる。

 

 また、PEに係る租税条約と国内法の規定の適用関係を明確化する等の所要の措置も講じられる。

 

  企業担当者が注意しなければならないのは、今回の改正があくまで国内法の改正であり、まだ発効されていないBEPS防止措置実施条約や二国間租税条約の適用がある場合には、それらが国内法より優先適用されるので、実務にあたってはこれらの条約を確認のうえ、PEの有無を検討する必要がある。

 

3. 事業承継課税

 

 国内における中小企業の事業承継問題がクローズアップされている。中小企業庁が2016年12日に公表した資料によると、経営者の平均引退年齢は中規模企業で67.7歳、小規模事業では70.5歳と、事業承継の高年齢化が進んでいる。承継をさらに困難にしているのが、主要国で最も高いとされる日本の相続税だ。

 

 大綱では、中小企業の代替わりを促進するため、10年間の時限措置として事業承継税制について、各種要件の緩和を含む抜本的な拡充が盛り込まれた。

 

 平成30年4月1日以降5年以内に、一定の要件を満たす事業承継を行う場合、猶予対象の株式の制限(発行済議決権株式総数の3分の2)が撤廃され、現行80%の納税猶予割合が100%に引き上げられる。この結果、贈与・相続時に後継者の納税負担が生じなくなる。

 

4. 個人所得課税

 

 非正規雇用やフリーランスの増加により、日本の働き方が多様化している。安倍首相も「働き方改革」を前面に打ち出しており、大綱でもこのような流れに対応する税制改正が盛り込まれた。

 

 最大の注目は、サラリーマンの給与所得控除が縮小され、働く人々があまねく恩恵を受けられる基礎控除が引き上げられる点だ。

 

 具体的には、給与所得控除の控除額が一律10万円引き下げられる一方、基礎控除は一律10万円引き上げられる結果、翻訳家やウェブデザイナーといったフリーランスや個人請負にとっては減税となる。

 

 改正後も、サラリーマンの96%については負担増が生じないとされているが、850万円を超える高所得者(給与所得者全体の4%)にとっては増税となる。

 

 今回の見直しは、働き方によって生じる所得税負担の違いを縮小し、「働き方改革」を後押しする狙いがある。

 

5. たばこ税

 

 「紙巻きたばこ」に係るたばこ税が、平成30年10月から平成33年10月にかけて、1本あたり3円増税される。20本入りのたばこ1箱だと、60円の増税になる計算だ。増税の影響を緩和するため、3段階に分けて行われ、消費税が10%に引き上げられる平成31年は増税が見送られる。

 

 また、紙巻きたばこに代わるたばことして急速に広がりを見せている「加熱式たばこ」に係るたばこ税ついても、平成30年10月から平成34年10月にかけて、5回に分けて段階的に増税される。

 

6. 国際観光旅客税

 

 平成31年1月7日以降、日本を出国する人に対して、出国1回につき1,000円の国際観光旅客税(出国税)が徴収される。航空運賃に上乗せする形で徴収され、外国人観光客のみならず、旅行や出張で出国する日本人も対象となる。乗り継ぎ客は対象外となる。

 

 税収は、国内の観光拠点の整備や、出入国手続きの迅速化に使用される予定である。

 

7. 森林環境税

 

 温室効果ガスの吸収源である森林を守り、地球温暖化の進行を抑制するため、森林環境税が創設される。国民が等しく負担を分かち合う観点から、平成36年度より市町村が住民税に上乗せして、年額1,000円の森林環境税を徴収する。

 

 税収は、間伐や人材育成、木材利用の普及啓発等に充当される。


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