2016.03.30

後手に回る日本企業のBEPS対応

 2016年、日本の企業税務は大きな試練を迎える。それは、国際租税の新しいルール「BEPS」に対応しなければならず、手腕が試される年になるからだ。BEPSの導入で、多国籍企業には税務情報のさらなる透明性や厳格な文書化が求められる。しかし、現状に目を転じると、十分な対応ができていない国内企業の姿が浮かび上がってくる。

 

 BEPSとは、“Base Erosion and Profit Shifting”の略で、「税源浸食と利益移転」を意味する。国家間の税率や課税制度の違いを利用した徴税逃れを食い止めようと、経済協力開発機構(OECD)が中心となって、国際租税の新たな枠組みを構築している。それがBEPSプロジェクトだ。

 

 日本CFO協会主催のBEPSに関するセミナーの企業参加者を対象にした調査によると、50名のうち17名が「具体的な対応策が進んでいる」と回答した一方で、18名が「まだ何もしていない」又は「これから検討する予定」と答えた。


 回答者の半分以上の28名が、「時間・予算・リソースの制約」を障壁に挙げ、「BEPSに関して必要な情報が得られない」と答えた参加者も7名いた。

 

 また、経理・財務部門以外の部門の関与については、「経営層が率先して進めている」と答えたのは50名中4名のみで、17名は「全く関与していない」と回答した。 

 

BEPS対応に警鐘

 

 このような現状について、国際税務の専門家は警鐘を鳴らす。

 

 「これまで日本企業はリスクマネジメントしかしてこなかった。しかし、これからの経理部門はコストマネジメントもしなければならなくなっている」。日系企業に40年以上勤務し、税務責任者としてM&A、移転価格、当局対応に従事してきた経験を持つEY税理士法人・移転価格部シニアアドバイザーの高原宏氏は、こう指摘する。

 

 「BEPS問題は税務問題にとどまらず、あらゆる面で事業に影響を及ぼす可能性があるため、すべての分野で有効な対処法を準備しておく必要がある」と訴える。

 

 例えば、BEPSプロジェクトの重要論点として「無形資産」がある。企業活動の高度化や、知的財産の重要性が増すにつれ、租税当局も無形資産に対する課税を強化している。

 

 「無形資産をどうやって見ていくか、フレームワークが大きく変わってきている」と述べるのは、EY税理士法人・パートナーの須藤一郎氏。

 

 無形資産に関しては、「無形資産とは何か」という定義の投げかけから始まり、「誰が無形資産の所得を得るのか」という帰属の問題や、知的財産におけるビジネス戦略や契約書の締結まで、企業が検討しなければならない項目は多い。多国籍企業は有形・無形資産に関する自らの所有形態や、新制度の下で誰が無形資産所得の配分を受けるのか、といった事項をレビューしなければならない。これを怠った場合、企業は想定外の課税リスクを負うことになる。

 

増える負担もチャンスに

 

 BEPS行動計画(アクションプラン)の目玉に「国別報告書(Country-by-Country Reporting=CbCR)」がある。

 

 CbCRの導入により多国籍企業の親会社は、そのグループ企業が事業を行う国ごとに収入金額や納付税額といった項目の税務当局への報告が義務化される。国別報告書の提出が求められるのは、前事業年度の連結売上高が7億5,000万ユーロ以上(自国通貨で同等の金額、日本円では1,000億円以上)の多国籍企業である。

 

 CbCR対応について須藤氏は、「どう情報を収集するか、どう課税当局に見えるようにするか、という2つのポイントがある」と述べ、グローバル企業の税務戦略の変革の必要性を説く。

 

 BEPS対応で検討すべき課題は多い。しかし、企業にとってBEPSはリスクであると同時に、ビジネスチャンスにもなり得る。

 

 EY税理士法人・シニアアドバイザーの高原氏は、こうも述べた。「今回のBEPS導入により、日本のルールがグローバルレベルと同等に近づく。近づけば近づくほど、日系企業にとって有利になる」。

 


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