2018.12.28

移転価格管理体制の整備と運用―移転価格ガバナンス(TPCG)の維持・向上

なぜ今、移転価格管理体制の整備などが必要なのか?

 多国籍企業の税務担当者は、この数年、移転価格3層構造文書、新興国での移転価格課税問題への対応などに多くの時間を割いている。また、最近では投資家などの利害関係者も、企業のコーポレート・ガバナンスや企業価値(税金も費用ととらえた税引後利益の最大化)に関心を寄せており、税務リスクや税金コストの両側面で金額的に重要な影響のある移転価格問題への関心も高まっている。一方、グループ内取引きの価格設定などを通じ、移転価格税制への対応は本社を含むグループ各社の業績に大きな影響がある。事業運営にも関係しているため、税務担当者による対応のみでは限界があり、企業全体での取組が必要になる。このような取組を支える一つの方法として、今後、「移転価格管理体制の整備と運用」が考えられる。

 

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移転価格管理体制の整備などにどのように取り組むか?

 今後、移転価格管理体制の整備などを行っていく上で、本邦税務当局が公表している「移転価格に関する取組状況確認のためのチェックシート 」(2012年に公表、2016年に改訂)、及び「移転価格税制に関する納税者の自発的な税務コンプライアンスの向上に関する取組」(2017年に公表)が参考になるかもしれない。例えば、チェックシートによると、移転価格上の問題の発生を防止する上で、企業にとって、①日本及び海外の移転価格税制やその取扱いについての理解、②トップマネジメントの意識作りと関与、③国外関連取引の実情把握と移転価格上の観点でのチェック、④グローバルな移転価格ポリシー (グループ全体としての移転価格対応戦略)の策定、⑤独立企業間価格の算定方法を念頭に置いた取引価格の設定、⑥本社・親会社による海外の関連企業の取組の把握と関与、 ⑦税務当局との円滑なコミュニケーションづくりの7項目について企業への取組状況に関する確認が促されている。まずは、これらを参考に企業の移転価格対応への現状とあるべき姿との乖離を把握することから始め、以下のとおり、段階的に体制の整備、そして運用へとつなげていく方法が考えられる。また、その際、マネジメントによる強いリーダーシップの下でTop-downで進めていくか、又は実務レベルから体制整備を行うBottom-upで進めていくかについても状況に合わせて検討する必要がある。

 

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移転価格対応業務の可視化と標準化をどのように行うか?

 移転価格3層構造文書の導入以降、移転価格対応業務は多岐にわたり、税務担当者もその全体像の把握に苦慮している状況に加えて、税務担当者と事業部、本社と海外子会社との間で移転価格対応に関する役割分担などの理解の共通化が十分に図られていない。そこで、移転価格対応業務を可視化する方法として、例えば、グループ会社向けに以下のような「移転価格管理方針」などを作成し、それを基礎に詳細は各業務規定を定め、グループ各社の関係者に展開、周知を行う。このような業務の可視化の過程で、重要性の低い業務などを取捨選択しながら、業務の仕分けと業務プロセスの標準化に合わせて取り組んでいくことが有用と考えられる。

 

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移転価格対応業務の効率化をどのように行うか?

 移転価格管理方針などの策定を通じて、移転価格対応業務の全体像やグループ各社の関係者の役割分担などを可視化した後、次の段階として、業務の効率化への取組を検討することになる。各業務について、業務の複雑性や社内リソースなどを踏まえて、例えば、以下の3つのステップを経て業務の効率化に向けた取組を検討していく方法が考えられる。

 

  • 業務プロセスの整理(例:作業内容、分担、スケジュール)
  • 業務の分解(例:「定型業務」と「非定型業務」への区分)
  • 業務実施方法の検討(例:内製と外製、自動化(テクノロジーの活用)とマニュアル作業など)

 

 例えば、国別報告書(CbCR)の作成などの業務では、既存の連結会計パッケージデータを基礎に比較的容易に作業ができる情報の収集業務は内製化し、収集情報から報告書作成のプロセスは自動化を図るなどの取組が、一方、国別報告書の財務情報などを基礎に、税務当局がどのような事項に着目するかというリスク診断については、外部専門家を活用することが、分解した業務の特性などに応じて、内製と外製、自動化とマニュアル作業など、メリハリのある対応を行っていく方法が考えられる。

 

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まとめ

 移転価格3層構造文書導入などのBEPS初年度への対応が終わったばかりであるが、ポストBEPS時代において、文書化対応のみならず、グループ各社と連携した移転価格調査対応や各種文書への問い合わせ対応のほか、外部利害関係者へのガバナンスの充実に向けた取組状況の情報発信や移転価格などを活用した税金費用の削減など、多国籍企業の税務担当者が取り組むべき課題は多い。このような課題への取組を継続して行っていく上では、税務担当者のみによる対応には限界があり、グループ各社の関係者を含め企業全体として持続可能な移転価格管理体制を整備していくことが不可欠であると考えられる。

 

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